145回目を迎える歴史と権威を持つ最古のメジャートーナメントをこの目で確かめてみたくて、2016年全英オープンが開催されるロイヤルトルーンGCに来ている。

 百聞は一見にしかずというが、スコットランド・グラスゴーから南へ50キロ、キンタイア湾の海岸線に位置する過去8回の全英オープンが開催されてきたロイヤルトルーンGCは想像していた以上にタフだ。リンクスコース特有の深いブッシュや深いバンカーはもちろん、コース内に大小さまざまなコブが点在し、飛距離よりも正確なショットが攻略のカギになる。


●飛距離よりも正確なショットを求めるリンクス


 名物ホールは8番”ポステージ・スタンプ”。切手という名がついた縦長で小さく、わずか130ヤードほどのパー3だが、グリーン・オンできるかどうかで天国と地獄の差が出る。ティー・グラウンドからは手前の丘が邪魔をしてグリーン面が確認しづらく、距離感が出づらい。風の読みを間違えると5つの深いバンカーと強烈な打ち上げのアプローチが残る要注意ホールだ。

 過去にこの8番ホールで15打が記録されたという。実際に目にしてみて8番が世界のベスト18ホールの1つに選ばれている理由が納得できた。


●ヨーロピアン・ツアーの巨匠コーチ


 ロイヤルトゥルーンを訪れる前にイングランドに滞在し、ダニー・ウィレット、ヘンリック・ステンソン、リー・ウェストウッドなどを指導するヨーロピアン・ツアーで最も有名なコーチ、ピート・コーウェンのアカデミーを訪ねた。

 旅ではいつも幸運が続き自然と道が開ける感覚を覚える。

 当日は事前にピート・コーウェンとはコンタクトが取れず、他のコーチに話を聞く予定だった。小雨の中、駐車場から歩いてアカデミーの入り口に差し掛かった時、ネイビーのBMWが勢いよくアカデミーに向かってきた。足を止め、降りてくる人物に目を向けるとピート・コーウェン本人だった。このチャンスを逃すまいと声をかけ、幸運にもすぐに時間をもらえることとなった。さらに幸運は重なる。今年のマスターズチャンピオン、ダニー・ウィレットのアカデミー練習を見学するという幸運にも恵まれた。


●スパイラル・スイング


 「私はスイングをワインのコルクを抜くようなものだと考えている」

 ピート・コーウェンは彼の理論「スパイラル・スイング」をこう表現した。下半身で地面に圧力を加え、その反発力をらせん状に上半身まで伝えていくという彼の理論は非常にパワフルで今まで学んできたアメリカの理論とは異なるものだった。

 そして、その下半身から生まれたパワーをいかに効率よく上半身に伝えるかを、大きなジェスチャーとデモンストレーションを交えて説明し、身に付けるためのさまざまな練習方法を紹介してくれた。

 ピート・コーウェンのレッスンは熱い。これはツアープレーヤーに対しても同様だ。話し始めると大きなジェスチャーとデモンストレーションがヒートアップしてくる。

 全英オープンの練習場で世界ランキング6位のヘンリック・ステンソンとはた目ではけんかをしているのかと思うくらい激しく議論しながらレッスンを行っている光景を目の当たりにした。

松山(左)に指導するコーウェン氏
松山(左)に指導するコーウェン氏

 ピート・コーウェンは松山英樹にもたびたびアドバイスをしている。月曜日の練習日にパッティンググリーンでピート・コーウェンのアドバイスが始まった。

 事前にピート・コーウェンのメソッドを学んでいたので、大きな身ぶり手ぶりから松山英樹に何をアドバイスしているのか理解できた。

 ダウンスイングとフォロースルーのリリースのタイミングについてアドバイスをし、動きを修正するためにクロスハンド(左手を下にする握り)の素振りを行うようにアドバイスをして関係者ゾーンに消えていった。


●ハンドファーストなインパクトを身に付ける練習方法


 クロスハンドでスイングをすると手先の細かな筋肉を使った操作を行いづらい。そのため、大きな筋肉を使ってクラブを適正なインパクトに導く感覚を養うことができる。

 特にハンドファーストにインパクトができずにすくい打ちをしてしまうアーリーリリースになるアマチュアには良い練習となるだろう。

 このクロスハンドの練習は素振りでもよいが、実際にボールを打つことをお薦めする。クロスハンドのフルスイングは難易度が高いので、まずはアプローチから始めると良いだろう。30ヤードくらいの距離のアプローチショットで体の正面でハンドファーストにボールを捉える感覚を養ってほしい。そうすれば今までよりも力強いボールが打てるようになるはずだ。


●145回目のチャンピオンの条件


 幸い練習日は天候に恵まれ比較的穏やかだ。しかし、スコットランドの天候は変わりやすく全く読めない。風が吹き出すとこのコースは選手に牙をむき出すことだろう。練習場で低いフェードボールの練習を入念に行う2度の全英オープン覇者・パドレイグ・ハリントンは風が吹くことを望んでいるかのようだった。風に強い球筋と正確性なショットの持ち主がクラレットジャグを手にすることだろう。

筆者(左)とコーウェン氏
筆者(左)とコーウェン氏

 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招聘し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログhttp://hiroichiro.com/blog/

(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)