2013年からPGAツアーに参戦している石川遼(25=CASIO)は、現在シード権をめぐって苦しい戦いが続いている。直近5試合で予選通過は1試合のみと浮上のきっかけをつかめていない。
20試合で昨シーズンのフェデックスカップポイント125位の選手と同等のポイントを獲得しなくてはならないが、今季のこれまでのペースではそれはかなわない。
「結果は出ていないが、現状の方向性は間違っていない。技術的な問題を修正したい」
試合後の会見では先を見据えた取り組みに一定の手ごたえは得ている模様で、異口同音にポジティブなコメントが多い。
●「初日〇、2日目×」の多い石川
ポイント獲得のための予選通過ラインは気にしていないというが、実際に成績を見てみると、今年に入ってから2日目にスコアを崩しての予選落ちは少なくない。
・WMフェニックスオープン(68→74)
・ジェネシスオープン(72→79)
・シェルヒューストンオープン(70→75)
・RBCヘリテージ(70→76)
・ウェルズファーゴ選手権(76→80)
こういった成績が続くのは、無意識にでも予選通過のプレッシャーを感じていると言わざるを得ない。
- ブリヂストンレディスに出場した宮里藍
●技術的な不安定さが要因か
石川は今年に入ってからシーズン中にも関わらず、フェースローテーションを抑え、球筋をドローからフェードに変えるスイング改造を行った。飛距離追求型のゴルフを捨て、より確実性の高いスイングへのシフトを決断したのだ。この方向性自体は間違えてはいないと思う。
石川は渡米してから、体格に勝る欧米の選手たちのプレーを目の当たりにし、飛距離を伸ばすようなプレースタイルを目指した。しかしこれが体への負担を大きくし、ショットのコントロール性を低下させ、思うような成績を残すことができていなかった。
その飛距離信仰からの脱却は、今後PGAツアーで生き残るために必要な選択だ。
「ザック・ジョンソンやルーク・ドナルドは飛ばし屋ではないがPGAツアーにおいて素晴らしい成績を残している。距離が出ないからと言って目一杯振ることはなく、ドライバーをまるでウェッジのようにコントロールしている。彼らのようにショットのコントロール性を磨けば、十分チャンスはある」
石川のゴルフについてこう述べたのは、数々のトッププレーヤーを優勝に導いてきたデビッド・レッドベターだ。
しかし毎週のように試合に出続け、予選通過ラインのプレッシャーの中でスイングを変えていくのは得策ではない。スイング改造段階ではここ一番、攻めたいときや守りたいときに、以前のスイングのクセが出てきてミスをしてしまう場合がある。100%自分の信頼できるスイングができない不安定な状態では、コンスタントにアンダーパーを重ねていくのは困難だ。
●「安心」と「自信」がパフォーマンスを引き出す
2016年の全米プロゴルフ選手権を制したジミー・ウォーカー。PGAツアー通算6勝を挙げるトッププロだが、一時は下部ツアーでくすぶりツアー選手としての道をあきらめかけたこともあるという。
「ブッチは勝てないプレーヤーの考え方を変え、勝利に導く術を知り尽くしているんだ。才能がありながら勝てなかったジミー・ウォーカーがブッチと組んでから2年で5勝したのがいい例だ」
モーガン・プレッセルを指導するクレイグ・ハーモンは、かつてタイガー・ウッズのコーチでもあった兄のブッチ・ハーモンの指導法について語った。
ブッチ・ハーモンが最も大事にしたのが、ウォーカーに自信を持たせることだったという。スランプに陥っているときでも原因を特定し選手を安心させ、その上で技術的な指導とメンタル面のアプローチで自信を持たせるように導いていく。これを繰り返すことで、ウォーカーはPGAツアーで優勝を勝ち取り、さらにメジャーでも勝利しトッププロの仲間入りを果たした。
- モーガン・プレッセル(手前)を指導するクレイグ・ハーモン氏
「『予選を通過したい』、『アンダーパーを出したい』というのは自らコントロールできるものではありません。ラウンド中にそのようなことを考えているとメンタルに大きな影響を及ぼしベストなパフォーマンスを出す事ができなくなってしまう」
こう指摘するのは、先日引退を発表した宮里藍(31=サントリー)をはじめ多くのトッププレーヤーのメンタルコーチを務めるピア・ニールソンだ。
「プレーの中では、自分でコントロールできる事にのみ集中をするべき。例えばスイングのテンポを遅くしたり、肩の力を抜くために深呼吸をするなどといった簡単なことです。これらは選手がどんな状態にあろうとも、行動に移すことができる。このように自分でコントロールできる事を繰り返すことで、自信が深まっていきます」
米PGAツアーの中で飛距離で劣る宮里は、メンタルを徹底的に見つめ直すことで、大舞台であってもプレッシャーに負けないパフォーマンス力と、世界一のボールコントロールを手に入れた。
今シーズン限りでの引退を発表した宮里だが、先週の中京テレビ・ブリヂストンレディスオープンでは、最終日6連続を含む9つのバーディを奪い下位からの猛チャージを見せた。どんなにに不利な状況にあっても、それを切り替えて常に上を目指すゴルフでギャラリーを沸かせる力はさすがだ。
宮里と同じく異国の地で同じく悩みもがく石川は、今シーズンが踏ん張りどころだ。
当時、高校生でトーナメントを制した2人は、日本のゴルフ界に大きな衝撃と影響を与えた。宮里は31歳でクラブを置く決断をしたが、石川はまだ25歳。この先のキャリアは長い。自信を取り戻すことができれば、アメリカでも宮里のように輝くことができるはずだ。
◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/
(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)