山下和宏(41=ザ・サイプレスGC)が、7バーディー、2ボギーの66で回り、通算9アンダー2位に浮上した。最終日は、プロ18年目でのツアー初勝利を目指す。過去最終日最終組は8回あり、ことごとく栄冠をつかみ損ねてきたが、アプローチ、パットの不安がなくなり“9度目の正直”にかける。

 山下はこの3日間“成功体験”を重ねてきた。この日は12番から4連続バーディーを奪い、16番パー3は、苦しい2メートルのパーパットが残った。「今週はこれ」と決めた右手をわしづかみするような「クローグリップ」で握ったパターはスムーズに動いた。「入った、やれる」。

 17番パー5は、花道まで運んだ第3打を、ピッチングウエッジで転がし、ピン50センチにつけて7つ目のバーディー。「寄せられた、やれる」。通算9アンダーとし2位で最終日を迎える。

 98年にプロテストに合格して、18年目になる。顔は若々しいが、中堅からベテランの域にきた。まだ、ツアー勝利の美酒を味わったことがない。数々の重圧の中で戦う山下にはアプローチ、パットでスムーズに手が動かなくなる「イップス病」が忍び寄っていた。「前々からだいぶアカンようになってきて」この開幕戦の前に、大阪のゴルフスクール「ゴルディア」の米沢愛信(よしのぶ)コーチに、見てもらった。その答えは単純に「アプローチもパターもゆっくり上げる」だった。それをやると、怖さが払拭(ふっしょく)されて、この3日間は手がスムーズに動いたのだ。

 さあ、9回目の最終日最終組。これまで8回の平均ストロークは72・875。60台を出したことがなく、ことごとく崩れ去った山下は「自分のゴルフで60台を出すだけ」と9度目にかける。優勝という最高の“成功体験”をすれば、もうイップスなんて怖くない。【町野直人】

 ◆山下和宏(やました・かずひろ)1973年(昭48)11月5日、大阪・高槻市生まれ。島上大冠(現大冠)高出身。中学時代は野球をしていたが、15歳から尾崎将司にあこがれ、ゴルフを始め、98年にプロテスト合格。08年から昨年まで7年連続シードを維持しているが、ツアー未勝利。175センチ、70キロ。

 ◆クローグリップ クロー(claw)とは、鋭く曲がったタカやワシのカギ爪の意味。パットのグリップで左手は普通に握り、利き腕の右手を左手の下から握らず、グリップに挟んだり添えたりする。心理的な面から手が動きにくくなったものを、スムーズに動かす対処法の1つで、マスターズ王者の1人、クレイグ・スタドラー(米国)が始めたといわれている。