<MotoGP:日本GP>◇決勝◇28日◇栃木・ツインリンクもてぎ(1周4・801キロ)

 モトGPでは、バレンティーノ・ロッシ(29)が05年以来の総合優勝を決めた。決勝(24周)の14周目、ストーナー(ドゥカティ)を抜いて首位に浮上。43分9秒599で優勝し、ストーナーに残り3戦で逆転不可能な92点差を付けた。元GPライダー、ノリックこと阿部典史さん(享年32)が事故死してから、初めての日本GP。あこがれだった阿部さんの母国で、最高の美酒を味わった。これで、最高峰クラスは6度目の総合Vとなり、歴代単独2位に浮上した。

 天才ロッシの復活を祝うように、西の空から突然、光が差してきた。ロッシはチェッカーを受けると、用意していたTシャツを着た。胸にはイタリア語で「待たせてごめん」。2年間の思いが詰まっていた。

 96年、阿部さんが果敢な走りで制した日本GPに感動を覚えた。名前を拝借し、「ロッシフミ」と名乗るほど心酔した。05年までに最高峰クラスを5度も制した。勝つことが当たり前になっていた06年、突然、勝利の女神から見放された。昨年10月には、畳み掛けるように阿部さん事故死の悲報が入った。

 衝撃の連続に、初めて初心に帰った。「僕にとっては1回、負け犬になったことが重要だった」。チームと問題点を話し合い、今季から万能型のブリヂストンタイヤに変更した。日本は最高峰クラスで唯一、優勝経験のないコース。謙虚さを取り戻したロッシに、天国の阿部さんが後押ししたのかもしれない。

 レース前、阿部さんの父光雄さん(59)から激励を受けた。「優勝したら、お墓にステッカーを張ろう」と約束した。ステッカーには「ロッシフミ、がんばれ」と書いてある。それはロッシが理解できる唯一の日本語だった。【森本隆】