北京五輪男子100キロ超級金メダリストの石井慧(21=国士舘大)が、柔道界追放の危機に直面した。全日本柔道連盟(全柔連)の吉村和郎強化委員長(57)は6日、都内で行われた全柔連の専門委員長会議の後に12年ロンドン五輪に向けた強化構想から石井を外す意向を明言。北京五輪で金メダル獲得後、数々の言動やプロ格闘家転向騒動などを考慮し「(柔道の)将来が見えないやつより、4年後を見えるやつを考えなければいけない」と言い切った。奔放な発言で注目を浴びる若き五輪王者が柔道界で厳しい立場に立たされた。

 ロンドン五輪まで強化のトップを務める吉村強化委員長が石井に対し、厳しい姿勢を示した。「(5日の)世界団体の試合後、石井と話した。石井本人は『(将来)総合に行きたい』と言った。(柔道の)将来が見えないやつより、力が落ちても4年後が見えるやつを鍛える。オレの頭の中では(石井は)ロンドンの構想から外れている」。

 五輪後の数々の言動とプロ転向騒動も理由の1つだが、現実的な問題も立ちはだかる。来年から国際柔道連盟がランキング制度を導入することが濃厚で、五輪出場枠はこれにより決まる。そうなれば、指定された国際大会に出場し自ら得点を稼ぐ必要があり、「強化選手から外れて1年ほど柔道を休んで世界を回って修行してもいい」と話す石井を戦力として計算できなくなる。だからこそ、吉村委員長も「試合を選べるシステムではない。甘えがあるヤツは切るしかない」と言い切る。

 過去にプロ格闘技に転向した小川直也、吉田秀彦らは全柔連の強化指定選手の辞退届を出した後、プロに転向したが、石井は現役五輪王者。一挙手一投足に責任が伴うだけに、同委員長も「ここまで騒ぎになったらいらん。自分の道を行けばいい。(プロ転向するなら)辞退届を出せばいい」と怒りを表した。

 全柔連の競技者規定では「格闘技系競技(プロレス、PRIDE、K-1など)にプロ選手などで登録され契約した場合」の処分は最高で永久資格停止。仮に柔道界復帰を目指すとしてもプロ活動停止から3年間の登録禁止が科される。

 だが、柔道界の中には多角的な将来を考慮してプロアマ間の敷居を低くする動きがあった。石井もそれに合わせるように北京五輪後、ロンドン五輪で2連覇を目指しながら、自身の目標でもあるプロ格闘技転向を見据え総合格闘技の練習も行う「両立スタイル」を視野に入れて進路を模索してきた。既にミット打ちの練習なども取り入れ、米ロサンゼルスで1カ月間の柔術修行をする計画もあった。だが、その両立プラン実現も難しい状況になってきた。

 吉村委員長は国際連盟のポイント制導入を想定し「柔道から1度離れて復帰?

 そんな甘いもんじゃない。ロンドンへ向け、4年間鍛えてきた人間の方がいい。道義的にも許されない」と話した。この日、石井は柔道部の練習には参加せず、都内で別メニューによる練習を実施。7日に男子代表の斉藤監督と都内で経過報告を行う予定だが、異例の柔道と総合格闘技の両立を目指した「侍」は極めて厳しい立場に立たされた。【菅家大輔】