<大相撲初場所>◇6日目◇16日◇東京・両国国技館

 両国国技館が異例の「朝青龍」応援ビラで染まった。横綱朝青龍(28=高砂)が、昨年名古屋、秋場所と連敗した豊ノ島(25)をのど輪から一気に押し出し、初日からの6連勝で進退問題を吹き飛ばした。逆境から復活を目指す姿に、会場もかつてない応援ムードに包まれ、この日は場所では珍しい500枚の応援ビラが観客から掲げられた。一方、前日の「殺してやる」発言を報じた新聞社の記者を「書き直せ」とどう喝するなど、土俵外でも本領発揮した。4連覇を狙う横綱白鵬(23)関脇把瑠都(24)平幕の栃煌山(21)も全勝を守った。

 朝青龍が土俵に上がると、客席がざわついた。土俵周りと1階升席から、「朝青龍」と書かれたビラが次々と掲げられた。その数は実に500枚。かつて負けると座布団が舞ったヒール横綱に、異例の応援ビラを手に観客が一体となって声援を送った。

 その応援が背中を押したのだろう。朝青龍は今場所初めて真骨頂とする速攻相撲で、天敵に圧勝した。幕内最低身長169センチの豊ノ島よりも低く立ち合い、左ののど輪でのけ反らせると、一気に足を前に運び、押し出した。要した時間2秒6は今場所最速だった。

 豊ノ島には昨年名古屋、秋場所と2場所続けて四つ相撲の末に敗れていた。いずれも微妙な判定だったが、今回は組まずに勝負をつける作戦だった。狙い通りの6勝目を、横綱は自画自賛した。

 朝青龍

 いい出足、いい相撲だった。よく相手を見て、起こして、起こして前に出ようと思っていたんだ。うん、よかった。左のど輪?

 よく伸びたね。

 進退をかけた場所で、逆境をはねかえす快進撃。その復活劇は相撲ファンも動かした。この日の「朝青龍」の応援ビラは埼玉県菖蒲町商工会に所属する40代の男性が用意した。朝青龍の予想を上回る奮闘に感動。印刷した500枚のビラを家族らとともに会場で配布。賛同した観客らとともに、一体化した応援ムードをつくり出した。勝ち名乗りを受けた朝青龍がほほ笑むと「このまま全勝優勝だ」の声まで飛んだ。

 一方で本来の相撲が復活した朝青龍は、土俵外でも自分本位の「朝青龍節」が戻ってきた。前日、インターネット上に殺害予告してきた容疑者が逮捕され、冗談っぽく「オレが殺してやるよ」と発言。複数の新聞に報じられた。しかし、この日になって「そんなこと言ってない。『殺せるものだったら、殺してみろ』と言ったんだ」と発言を修正。その上で「(取材に)しゃべらなくなるぞ。いいのか」。取組前には発言を1面で報じた新聞社の記者を呼びつけて「書き直せ」とどう喝した。

 自信をなくしつつあった場所前は「もう、長くない」と自虐的な発言もあったが、良くも悪くもそれは過去のものになろうとしている。横綱昇進後、初日から6連勝は過去16場所あり、うち15場所で優勝している。V確率93・75%。調子が上向き、復活への手応えはつかんでいるはずだが、あえて「まあまあだ。でも、まだ初日(の気分)だ。自分は自分の相撲を取るだけ。マイペースだ」とぶっきらぼうに話した。土俵の中と外で、朝青龍がさらに暴れそうなムードになってきた。【柳田通斉】