「平成の大横綱」が強行出馬する。大相撲初場所(10日初日、東京・両国国技館)後に実施される日本相撲協会の役員選挙に向け、二所ノ関一門は8日、両国国技館内で緊急一門会を開いた。現職の放駒理事(61=元大関魁傑)二所ノ関理事(61=元関脇金剛)と、新たに立候補した鳴戸親方(57=元横綱隆の里)貴乃花親方(37=元横綱)から通例の「3人」に調整しようとしたが失敗。貴乃花親方は一門からの離脱意思を表明して途中退席し、02年以来4期ぶりの理事選挙の可能性が高まった。

 緊急の一門会が始まって2時間が過ぎていた。貴乃花親方が、すがすがしい表情で会場となった相撲教習所の階段を下りてきた。会が終わった、のではなかった。「覚悟はできているのか」と問われた貴乃花親方は「皆さまの迷惑になるので、わたしだけが一門を出ます」と言って1人だけ、途中退席したという。

 貴乃花親方

 あらためて「立候補させていただきます」という話をしました。私はごあいさつしただけ。「お世話になりました」と。一門の総意が大事だということなので、一門から出るということです。とりあえず私は退散してまいりました。

 ひと言ひと言をかみしめるように話し、穏やかな笑みを浮かべた。だが、出てきたのは衝撃の「一門離脱」表明。会の冒頭で一門を離れる意思を聞かれた際「一門を出る気はありません。一門を壊す気はありません」と表明しながら、多数決で決めようとする動きに「どうしても私は出ます」と猛反発した。自ら一門を去るという異例の決断を下して不退転の意思を変えず「選挙に出るのか?」の問いに「出ます」と断言した。

 今月末の理事選には現職の放駒理事、二所ノ関理事に鳴戸親方も初めて出馬意思を示した。10票が当選ラインとなる選挙で、合計29票の二所ノ関一門はこれまで「3枠」が通例だった。しかし、候補は貴乃花親方を含めた4人。昨年11月から一門内の調整を続けてきたが、いずれも立候補の意向を曲げなかった。

 08年2月、貴乃花親方は35歳の若さで役員待遇に抜てきされた。将来の「理事長候補」には、放駒親方らが役員定年になる2年後まで待つ選択肢もある。ただ「理事という立場は大事。立場が役割を生むから」と貴乃花親方。朝青龍問題や大麻騒動、時津風部屋新弟子事件…。近年起きる土俵外の問題のたびに、角界の体質が問題視された。改革を望む大嶽親方(元関脇貴闘力)阿武松親方(元関脇益荒雄)はじめ、一門外を含めるとすでに9票を固めたという情報もある。

 異例の「無所属」での立候補表明。二所ノ関親方は「自発的に出ていった。破門などの処分はない」と懲罰を与えない意向。貴乃花親方支持の親方衆が一門離脱に追随すれば、二所ノ関一門は一気に23票前後になる可能性もある。一門制を壊す勢いで決行した「貴乃花の乱」。旧態依然の角界を変えるべく、現役時代と同じように貴乃花が真っ向勝負に打って出た。【近間康隆】