<大相撲秋場所>◇8日目◇19日◇両国国技館

 13度目のかど番を迎えた大関魁皇(38=友綱)が、星を五分に戻した。前頭4枚目の徳瀬川(27)を寄り切って、4勝4敗。負け越せば引退が現実味を帯びる中、必死の土俵で意地を見せた。満身創痍(そうい)で厳しい状況に変わりはない。9日目は、大関把瑠都(25)と対戦する。

 自分の形にこだわった。初顔の相手に、魁皇は迷いなくぶつかった。左下手を差して、まわしをつかむ。胸を合わせて、じりじりと必殺の右上手を取った。寄った。この日一番の大声援を浴びた。「攻める相撲だったと思う。自分の形にこだわって、立ち合いで自分の形になれたのがよかった」と淡々と言った。

 先場所は左肩を痛めて休場。今場所4日目には、右ヒザを故障した。5日目には病院でひざの水を抜き、痛み止めを打った。進退が掛かる場所。4勝4敗となっても「考えてもしょうがない。1日1日しっかり集中して相撲が取れれば…。とにかく思い切って、相撲が取れればと思う」と、星勘定を嫌った。

 今場所4日目の取組前、西の支度部屋でのこと。戦友だった元大関千代大海の佐ノ山親方に言われた。「やれるだけやって、自分で引退を探さなきゃな」。多くは語らず、静かに「うん」とうなずいたという。

 佐ノ山親方

 オレは、魁皇に負けて引退を決めた。ケガで終わるのは悔しい。番付が同等の者とやって、初めて力の違いが分かる。だから、横綱、大関戦までやって、最後の意地を見せるつもりでしょう。引退するのはまだ、早いんじゃないか。支度部屋でも、汗をかきながら、がっつりテーピングを巻いている。気持ちは切れていないね。

 師匠の友綱親方(元関脇魁輝)は「状況は変わらない。現状では精いっぱい。痛みを気にしながらとっている部分があるから」と楽観視しない。今後、大関陣を崩さないことには勝ち越しは見えてこない。

 9日目の把瑠都戦に向け、魁皇は「自分の相撲を取る以外に、考えられない」と迷いなく言った。左四つ、右上手-。かつてリンゴを握りつぶしてジュースができたほどの握力はもうない。しかし、自分の武器を信じて、決死の土俵に上がり続ける。【佐々木一郎】