<大相撲初場所>◇11日目◇19日◇東京・両国国技館

 関脇稀勢の里(24=鳴戸)が、再び「白鵬キラー」ぶりを発揮した。立ち合いから横綱白鵬(25=宮城野)の右差しを封じ、突き放して最後は押し出し、2場所連続で撃破した。先場所は白鵬の連勝を63で止める歴史的金星。再び殊勲の勝利で、23連勝中だった今場所全勝の横綱に土をつけた。大関琴欧洲(27)隠岐の海(25)栃乃洋(36)が2敗をキープした。

 稀勢の里が意地を見せた。座布団が舞う中、花道を引き揚げる顔は紅潮。先場所に続き、またも白鵬に黒星をつけた。支度部屋にどっかと座ると、水をグイ。「ふー」と息をついた。

 稀勢の里

 うれしい。たまたま流れがよかった。まわしを取られないようにした。特別気負いはなかった。僕は負けて当然。胸借りて当たっていくだけだった。失うものはなかった。

 左をおっつけ、白鵬が得意とする右を封じると、一方的に押し出した。前日は魁皇の引き技に4敗目。「あれがあったから、逆によかったかも」と開き直って波乱を演出した。先場所の白鵬戦は四つに組んで金星。今度は突き放して完勝。違う展開で、地力の高さをあらためて証明した。

 強烈な突き押しは元アマチュアボクサーの父萩原貞彦さん(65)譲りだ。実家にはサンドバッグがあり、稀勢の里も小さいころからパンチを打っていた。「パンチは腰で打つが、相撲の突き押しも一緒。腰、ひざ、足。下半身の粘りが大事。あのモーションなしでの突き押しは、自然と身についている」と貞彦さん。

 先場所前には、13連続防衛の日本記録を持つ元WBAライトフライ級王者の具志堅用高氏(55)が部屋のパーティーに出席。関取衆と話す機会があった。鳴戸親方(元横綱隆の里)は言う。「具志堅さんに言わせると、足の親指に力を入れるといいパンチを打てる。相撲でも土俵にめり込むほど力を入れるといい。弟子に『腰の回転と親指の力だぞ』と言っている」。そんな意識が、2場所連続の白鵬撃破につながった。

 先場所の殊勲で、稀勢の里に気持ちの変化があった。「慌てないこと。去年の暮れくらいから考えている」。決して動じない。すると周囲が見える。この日もそう。「いつも以上に横綱が仕切り線から後ろだった」。舞い上がらず、白鵬の気負いを感じ取った。

 この日売れた当日券は1526枚。昨年の初場所以降、東京場所では最多だった。ファンも注視した「黄金カード」で期待通りの仕事をやってのけた。日本人ホープ。そう呼ばれて久しい大関候補への注目が、再び高まった。【大池和幸】