<大相撲秋場所>◇9日目◇19日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(26=宮城野)が全勝を守り、単独トップに躍り出た。東前頭4枚目の栃ノ心(23)を寄り切って9連勝。今場所は速攻が目立つが、理想としているのは「相撲の神様」と呼ばれた双葉山の「後の先」。最高峰の技術を習得しようと、帯を譲り受けたり、遺族に会って生前の写真を見たりと、今場所前は偉大な故人に接近していたことが判明。大横綱の仲間入りとなる史上6人目の20度目の優勝へ突き進む。関脇稀勢の里(25)は、大関把瑠都(26)に敗れて初黒星。琴奨菊(27)、臥牙丸(24)は1敗を守った。

 相手に息つく間も与えない完勝だった。白鵬は立ち合いで右四つに組むと、すかさず左から出し投げを打った。慌てた栃ノ心の胸に頭をつけると、あとは一気に寄り切った。5秒1の完勝で「定位置」の単独トップに立った。前日までは、他の全勝力士に「ついて行くだけ」と話していたが、さすがにこの日の取組後は「引っ張る立場になった。最後まで引っ張っていけるよう頑張ります」と、優勝争いの主役らしく話した。

 今場所は平均3秒89で仕留め、最も長い隠岐の海戦でも6秒2しか要していない。それでも「たまたま。流れの中で、そうなっただけ」と、話したことがあった。一方で、理想とする双葉山の後の先について「忘れてはいけないこと」と、常に追求している。後の先とは、立ち遅れているように見えながら、組んだ時には先手を取っている立ち合いのこと。双葉山の代名詞で最高峰の技術。白鵬も習得に近づいた実感はない。

 昨年九州場所では、双葉山の持つ史上最長の69連勝超えを狙ったが63連勝で止まった。偉大さを再確認した。だからこそ双葉山の息吹を感じたかった。今場所前、双葉山が築いた時津風部屋に出稽古した際、双葉山の帯をもらった。弟子の北葉山が譲り受けたものをその夫人から託された。また今月7日には、都内で開催中だった双葉山の写真展に、双葉山の帯を締めて出向いた。双葉山の孫にあたる穐吉正治さんらと話し、少し近づいた気がした。

 相撲協会はこの日、双葉山の故郷の大分・宇佐市で生誕100周年記念イベントを行うと発表した。12月3日に双葉山と白鵬、江戸時代の横綱谷風の3人の名が刻まれた「超60連勝碑」の除幕式、同4日に宇佐神宮で白鵬の奉納土俵入りなどが行われる。「去年から言われていたことだから」と、故人の生家なども訪れた1年前を思い出した。

 2場所ぶりの優勝を飾れば、過去5人しかいない20度目の大台に到達。名実共に仲間入りする「大横綱」として「相撲の神様」を目指し続ける。【高田文太】