<大相撲春場所>◇13日目◇23日◇大阪府立体育会館

 関脇鶴竜(26=井筒)が、初優勝と大関昇進に王手をかけた。大関琴奨菊(28)を上手出し投げで下し、12勝目。昇進の目安となる直前3場所合計33勝まで、あと1勝に迫った。横綱白鵬(27)が敗れ、優勝争いは単独トップ。今日14日目の琴欧洲戦に勝ち、白鵬が敗れれば、01年秋場所の琴光喜以来、11年ぶりに関脇以下の優勝が決まる。

 現役最多、技能賞6回の業師ぶりを見せつけた。鶴竜が、右を巻き替えてもろ差しになる。相手が再度巻き替えてきたところで体を開き、右からの上手出し投げ。鮮やかに琴奨菊を転がした。今場所8つ目の決まり手で、12勝目。「今まで、自分のやってきたことがずっといいように出てる」と振り返った。

 白鵬が敗れた結びは、土俵下で目の当たりにした。1横綱3大関を破り、V争いの首位。鏡山審判部長(元関脇多賀竜)は、昇進について「内容的に申し分ない。選挙で言えば当確でしょ。当選じゃないけど」と話した。残り2日間次第とはいえ、合格点を与えた。

 支度部屋では、鈴なりの記者に囲まれ、優勝や昇進への意識を次々と質問された。かつてない状況にも「余計なことは考えない」と繰り返しつつ「人間ですから」と葛藤(かっとう)する心境をつぶやいた。部屋に戻ると「全然違うことを考える。相撲以外のこと」。動画サイトでほかのスポーツを見たり、音楽を聴いたり。必死で平常心を保ち、13日目まで戦ってきた。

 師匠の井筒親方(元関脇逆鉾)は胃が痛む。「ちょっとじゃないですよ。早く終わってほしいです」と苦笑する。一方で「1年を通して勝ち星は、なかなかできる成績じゃない」と弟子の安定感を評価した。昨年5月の技量審査場所から、合計63勝。5大関で、この勝ち数を上回るのは把瑠都だけ。大関級の実力は、数字も証明している。

 昇進が決まった場合の伝達式は、宿舎でなく大阪・天王寺区の法岩寺に内定。優勝に備えてタイも発注しなければならない。昇進と初Vが重なれば、99年名古屋場所の出島以来13年ぶり。「自分のことに集中して、最後までいきます」。相撲人生を左右する局面でも、無表情を貫いた。【佐々木一郎】

 ◆優勝と同時の大関昇進

 鶴竜が達成すれば99年名古屋場所の出島以来で、昭和以降18人目となる。過去には後の横綱双葉山、栃錦、大鵬、北の湖、千代の富士、曙らがいる。また過去の関脇優勝は、延べ24度(元横綱朝潮が2度マーク)。これまでの23人中、長谷川を除く22人が大関昇進(優勝直後に限らず)している。優勝制度が設定された1909年(明42)以降、鶴竜が頂点に立てば史上99人目となる。