<大相撲夏場所>◇13日目◇18日◇東京・両国国技館

 大関稀勢の里(25=鳴戸)が痛恨の3敗目で、初優勝への正念場を迎えた。横綱白鵬(27)に、いいところなく寄り倒された。3敗を守った平幕栃煌山(25)旭天鵬(37)との差がなくなった。13日目終了時でトップ3人が並ぶのは、03年名古屋場所(魁皇、千代大海、雅山が3敗)以来という大混戦。白鵬は4敗をキープし、トップと1差に縮めた。

 稀勢の里は、花道を引き揚げながら首を小さくひねった。見せ場もない完敗。自責の念に深く駆られたのだろう。支度部屋に戻っても、うなるだけでしばし沈黙。敗因が見つかると、ようやく重い口を開いた。

 「まあ、もっと、うーん…。きのう、きょうと落ち着きすぎている。もっと緊張しないと。もっと熱くなっていい。もっと硬くなっていいと思う。何か落ち着きすぎている」

 ほとばしるような闘争心を、どこかに置き忘れてきたのか。白鵬の大型連勝を63で止め「横綱キラー」と呼ばれた姿は、すっかり影を潜めた。張り差しで動きが止まり、得意の左おっつけも不発。抵抗すらできなかった。わずか2秒5のあっけない決着だった。

 一時は2差あったリードを後続に追いつかれた。自身の初優勝、そして6年ぶりの日本人の賜杯獲得には、ますます暗雲が漂ってきた。残りは苦手の大関戦。過去13勝23敗の日馬富士、4勝18敗の把瑠都を迎える。トップで並ぶのは平幕の2人ながら、優位とは言えない。もう1敗もしたくない状況に追い込まれた。

 これが生みの苦しみか。昨年11月に急逝した先代鳴戸親方(元横綱隆の里)の教えを、今こそかみしめているに違いない。師匠からは横綱や大関に上がる時や、優勝した時の苦しかった体験談を何度も聞いた。「先代によく言われたのは『孤独になれ』ということ。強くなるほど孤独になると」。もっと自らと向き合い、もっと闘志を押し出す自分の相撲を思い出せば、道は開けるはず。まだ、チャンスは残っている。

 「きのう、きょうと悪いところが出たし、これ以上(悪くは)ならないと思う。やるだけやります」。このまま連敗でじり貧に終わるのか、大混戦から再び抜け出すのか。今こそ、男の意地を示すときだ。【大池和幸】