<大相撲名古屋場所>◇2日目◇9日◇愛知県体育館

 大関把瑠都(27=尾上)が小結豊ノ島(29)を破り連勝を決めた。前日、横綱白鵬に善戦した相手に万全の内容だ。夏場所後にエストニアに帰国し英気を養った。母国でイルベス大統領から公邸に招かれた。その他にも、エストニアから日本に行き、力士になった半生を本やミュージカルにしたいというオファーを受けた。2度目のVへ絶好のスタートを切った。横綱白鵬(27)も連勝。大関陣では琴欧洲(29)が初黒星を喫した。

 把瑠都が盤石の内容で連勝を決めた。右上手をつかむと、何度も力を入れ直し土俵際へにじり寄る。もがく豊ノ島をキャッチし、土俵下へリリース。「途中で投げに行こうと思ったけどやめた。やっぱり上手ですね」。初日に続き、粗い相撲は影を潜めた。

 先場所後、今年初場所の優勝を手土産に、2010年の大関昇進後、初めて約2週間母国に帰った。「大統領に招かれたイベントはあったけど、ほとんどは実家にいた」と言う。だがエストニアが生んだヒーローを周囲は放っておかなかった。19歳で遠く日本に渡って力士になり、大関までのし上がり優勝も飾った。その半生をミュージカルの題材にしたいというオファーが届いた。映画や本のモデルにしたいという話も続々と舞い込んだ。

 現地で相撲はテレビ中継されていないが、スポーツ新聞は把瑠都を大々的に取り上げる。インターネット電話・スカイプを世界に発信した国だけあり、ネット環境も充実しており相撲を知ることができる環境は整っている。数々のオファーに「自分が出演するわけじゃないから」と把瑠都は笑うが、スピード出世やケガへの苦悩など、劇的な生きざまが母国の人々の心を揺さぶったのは間違いない。尾上親方(元小結浜ノ嶋)は「現地が生んだヒーローだからね。そうしてもらえるのはいいこと」と賛成する。

 遠いのは愛知県体育館までの距離も同様だ。尾上部屋は会場から約60キロ。車で1時間以上かかる西尾市一色町にある。若い衆は午前5時27分西尾駅発の始発に乗る。ただ、海から近い部屋の立地は絶好だ。釣り好きの把瑠都は場所前に1度だけさおをにぎった。釣果を聞かれると「小さいサメが3匹だけ。全然だめ。かわいそうだから海へ戻した」と笑う。破った豊ノ島へ手を差し伸べた心優しき把瑠都は、釣りでもキャッチアンドリリースをする紳士だ。

 足がよく動き、状態についても「悪くはない」と手応えを感じている。2度目のV、そして綱とりへ。万全の把瑠都なら、遠い目標も近くにたぐり寄せられるはずだ。【高橋悟史】

 ◆エストニアメモ

 エストニア共和国。ラトビア、リトアニアと並ぶバルト3国の1つ。公用語はエストニア語で首都はタリン。人口は10年の推計で129万人。広さは4万5227平方キロメートルで、九州とほぼ同じ面積。1991年に旧ソ連から独立宣言。通貨はユーロ。ほぼすべてのホテルで有線、無線LANが提供されているIT国。