<大相撲名古屋場所>◇13日目◇25日◇愛知県体育館

 執念と呼ぶほかになかった。優勝争いから早々に脱落し、消えかけていた存在感。それを一気に取り戻した。土俵際で逆転の右小手投げ。大関稀勢の里(28=田子ノ浦)が「一番強い横綱」白鵬(29)を倒した。「必死…なだけでした。良かった。勝ったことが一番」。懸ける思いの強さが実った。

 注目の立ち合いは一発で決まった。思い切り踏み込んで。夏場所は呼吸が2度合わず、3度目も合わずに手を引いたところを立たれて防戦一方で敗れた。「合わせようとしていた。その時点で、相手の土俵に上がっていたかもしれない」。

 今回は迷いがなかった。互角。前に出た際、たぐられて体が泳ぎ、俵に足も掛けたが、懸命にこらえた。「(今場所)ふがいない相撲が多かったから、あきらめずに」。強引な寄りで来る白鵬を左手で頭を押さえつけながら、投げ倒した。

 この一番に…本当は勝って優勝を近づけるために、懸けていた。6月中旬。奈良での合宿後、名古屋に向かわず都内に戻った。昨年は早々と名古屋に入ったが、土俵がなく、番付発表前は稽古できなかった。反省から都内で毎朝、誰もいない部屋に通った。鏡に向かい、四股を踏み、すり足で汗を流す。すべては、今年1度も勝てていない最強横綱を倒すためだった。

 執念は実った。だからこそ「前半ちょっと情けない。悔しい」と漏らした。弟弟子の高安に自力優勝の可能性を与えた。「頑張ってるから少しでも。でも、やっぱり…」。止まった言葉の続きは「自分のため」だったのか。「今場所は出ているかどうか分からない相撲内容。しっかり2日締めて自信をつける場所にしたい」。【今村健人】