<大相撲九州場所>◇13日目◇21日◇福岡・福岡国際センター

 横綱白鵬(29=宮城野)が、偉業へ大きく前進した。大関琴奨菊(30)を豪快な上手投げで下して1敗を守った。同じ1敗で並んでいた鶴竜(29)が日馬富士(30)との横綱対決に敗れ、優勝争いの単独トップに浮上。今日14日目の日馬富士戦に勝ち、鶴竜が琴奨菊に負ければ、大鵬に並ぶ史上最多32度目の優勝が決定する。

 心の揺れは、少しもなかった。目の前で鶴竜が敗れ、勝てば優勝争いの単独トップに浮上できる好機が巡ってきても、白鵬は余計な欲も、力みも見せなかった。立ち合いで右を差し、左上手をがっちり引く。前に出てこようとした相手の力を利用するように、後ろに下がりながらの上手投げで豪快に転がした。

 「まあ、いい流れで。チャンスあって、タイミング良く投げましたね」。史上最多32度目の優勝へ大きく近づく白星にも、いつも通り事もなげに振り返った。

 前日12日目に鶴竜が注文相撲で豪栄道を下したが、白鵬も立ち合いで変わって優勝したことがあった。大関だった07年春場所。優勝決定戦で、低く踏み込んできた横綱朝青龍の頭をつかむようにして、半身ではたき込んだ。それだけに、変化した鶴竜の気持ちも「分かるような気がします」と言う。だが、横綱として白鵬には自負もある。「横綱になったんで、1度はがっちり受け止める」。そんな覚悟、勇気が「必要ですよ」と力を込める。数々の修羅場を乗り越えて築き上げた強い心は、偉業を前にしても乱れない。

 日本の父と慕っていた大鵬に、いよいよ肩を並べる時が迫ってきた。今日14日目に日馬富士に勝ち、結びで鶴竜が琴奨菊に負ければ、32度目の優勝が決定する。「優勝が見えてきたか」と問われた白鵬は、10秒ほどの沈黙の後で「まだ、早いと思います」と答えた。それでも、周囲は大記録達成時に備えて動き始めている。名古屋後援会が中心になって、海外での盛大な祝賀会を計画中。開催地はハワイが最有力だ。

 「大関戦が始まってから、思い切りの良さが出ていると思う。そのへんを思い出して、乗り越えていきたい」。2横綱との戦いが待つ最後のヤマ。力強く踏み出し、角界の頂点へ上り詰める。【木村有三】