夏の甲子園に出場したドラフト候補の投手の評価は、チーム及びスカウトの考え方がはっきりと出るなと感じた。何人か候補に挙がるだろうが、絶対的な力を持った投手は少なく、ランク付けは補強ポイント、ビジョンなどによって、大きく異なるだろう。

今大会を見て、印象的だったのは、将来が楽しみな好素材の2年生投手の存在だった。1年たって、どこまで伸びるか。横浜、ヤクルト、巨人、ロッテで投手コーチを務めたが、19年に巨人を退団以降、このようにワクワクするのは久しぶりだった。

力投する日本文理・田中(2021年8月20日撮影)
力投する日本文理・田中(2021年8月20日撮影)

最も将来性を感じさせたのは、日本文理の田中君だった。最速147キロのスピードはもちろん、フォーム的にもいじる部分がなく、球離れも一定だった。投げっぷり、マウンドでの雰囲気も良く、クイックもできて、投手センスを感じさせた。

近江の山田君はスピード、キレのあるボールを投げる。打者を攻めることを知っていて、どんな球でもポンポンとストライクを投げられる。大阪桐蔭の川原君は、ピッチャーらしいピッチャーで、常に全力で投げられる。素材的に素晴らしく、大化けする可能性を秘める。

京都国際の森下君は、大きくテークバックを取りながら、まとめるのがうまい。何よりも評価できるのは、ボールを低めに集められることで、ボール球になっても低いところを徹底した。初戦では9回を投げ、高めに抜けたのは数球。技術で抑えるタイプで、高校生離れした落ち着きを感じた。

ゲームセンスで抜群だったのは、浦和学院の宮城君。森下君同様にボールを低めに集め、安定感を感じた。ここはストライク、ここはボールなど、ピッチングの意思を感じられ、思い切りも良かった。スナップもしっかり利き、テンポも良し。体は小柄な方だが、投球や雰囲気から、己を知っているように見えた。

三重の上山君はストライクを取ることに全く苦労せず、マウンドでのきっぷの良さが印象的だった。ピッチングの中で割り切りができ、投手の資質で大事な要素でもあるプラス思考に映った。フォーム的には体の使い方が上手で、しっかりとボールに力が伝えられている。

将来的に「面白いな」と感じた投手を挙げたが、あくまでも個人の感想。今大会では登板がなかったり、不調だったり、他にも全国各地には可能性を秘めた投手がいるだろう。練習に正解はない。故障にだけは注意し、信念を持って、突き進んでほしい。(つづく)

小谷正勝氏(2019年1月撮影)
小谷正勝氏(2019年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチ。