プロ野球OBが学生野球資格を回復して、高校野球の現場で活躍する光景が自然になってきた。酸いも甘いもかみ分けた元プロによる指導は、間違いなく高校野球の底上げにつながっているだろう。

オリックスでプレーした川口知哉氏(43)が4月1日から母校の龍谷大平安(京都)のコーチとして正式に指導を始めた。高校時代、3年夏の甲子園で準優勝に貢献し、4球団の競合でオリックスにドラフト1位入団。しかしプロでは白星を挙げられず、わずか7試合の登板で引退した。

たぐいまれな素材を持ちながら思うように投げられない川口投手を、コーチ陣は放っておかない。だが、指導を受ければ受けるほど迷宮に迷い込んだ。その時の経験が川口氏にとっての「財産」だと言う。

「自分にとってのある程度の『答え』が見つかるまでに3年はかかりました。何を言われても僕にははまらなかった。広い意味で言えば野球にはセオリーというものがあるけど、それが、その人にとってのセオリーではない場合もある」

当時の膨大なアドバイスには「感謝しかないですね」。取捨選択の難しさも知った。それが指導者としての引き出しになっている。

だから今、高校生と向き合う時には一般的な「セオリー」にこだわらないという。「はまらない子もいますから。個性をつぶしたら、ただの投手になってしまうこともある」。素材の良さを生かしつつ、個々の体に合った無理のないフォーム作りを一緒に進めている。1学年十数人ずついる投手陣で、現在のところ肩や肘に故障を抱えている投手はいないという。

恩師でもある龍谷大平安の原田英彦監督(61)は来年で監督30年。人間性を高く買う川口氏を求めたのは、もう1段レベルを引き上げるため、新しい血を必要としていたからだ。

「女子プロ野球の指導者も長くやっていたから総合的に伝えてくれる。成功も失敗も経験しているからこそ、いろいろなアプローチができる。冷静に選手と対話しますからね。僕らとは違う形で、いろいろなことを伝えてほしい」と大きな期待を寄せている。

高校球界でトップクラスの実績を残してきた原田監督と、プロを経験した川口氏のハイブリッド。名門にどんな化学反応が起こるのか、興味深い。【柏原誠】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)