よく勝てたな。そんな印象だ。阪神課題の守備ミスで失点した試合だ。1点リードの4回、1死一、二塁から投手の野選と内野手の失策で同点に。これでガタガタと崩れていてもおかしくなかった。

しかし後続を併殺に切ってなんとかしのいだ。そこから流れが阪神に来て、加点できた。サヨナラ勝ちの前日も含めて、どちらかに転んでもおかしくない試合を続けて取った。

もっと言えば初戦などは阪神が勝っていた試合だったはず。守備の堅い中日に1イニングで2失策が出て、3得点。これは楽勝…と思ったら終盤に逆転されてしまった。しかし3試合を終えてみればカード勝ち越し。正直、なんとも不思議な気分だ。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。知将・野村克也が残した格言と思っている人がいるかもしれないが、江戸時代の大名で剣豪だった松浦静山が記した言葉で、これを野村が有名にした。いずれにしても勝負の世界を実にうまく表現した言葉だと思う。

この日を不思議の勝ちととらえれば、では、なぜ勝てたのか。1つのヒントはマルテの走塁にある気がする。6回、陽川尚将の左前打で、二塁から懸命に走った。最後は体を投げ出すようなスライディングで生還。中日ベンチのリクエストもあったほど微妙なタイミングだった。正直、かっこいい走塁ではなかった。しかしなんとか生きようという気持ちが出ていた。

「形がどうであれ、勝ちたい。どれだけ不細工でも、どれだけ四球を出しても、どれだけ打たれても、粘ってなんとか6回3失点とかでもいいので、勝ちたい」。これは開幕投手を務めた藤浪晋太郎が先月、日刊スポーツのインタビューで語っていた言葉だ。

藤浪だけではないと思った。伝統球団と言われながら05年の優勝が最後。日本一も1度だけ。歴史は現在のナインに直接関係ないけれど、スマートに、いいカッコをしていて勝てるチームでないのは間違いない。

首位浮上か。しかしソフトバンクが負けているように、どこも不安定だ。やっと勝ったDeNAもこの成績のままではないだろう。最後に抜け出すのは「不細工でも勝ちたい」という気持ちがもっとも強かったところだと思う。さあ、甲子園、巨人戦だ。土のグラウンドでユニホームを真っ黒にして戦え。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)