阪神史で唯一の出来事は03年10月に起きた。18年ぶりにリーグ制覇し、臨んだ日本シリーズは3勝4敗でダイエーに敗退。日本一を逃した星野仙一はそのシーズン限りでの勇退を決め、福岡から空路、大阪へ戻ると後任の岡田彰布と並んで記者会見した。阪神史上、辞任する監督と就任する監督がそろって壇上に上がったのはこれだけという。

星野はシリーズ前日に当時の虎番記者キャップをそれぞれ呼び出し、勇退を明かしていた。私も携帯電話で呼び出され、福岡市内のホテルの一室に出向いた。そこで「おう。辞めるわ」と聞かされた。

動揺したものの「ホンマですか。次は誰がやりますの?」と聞いた。「岡田や。球団はもう岡田に決めていたし、オレも同意した」。そう聞いていたので実際に星野と岡田が並んで記者会見するのを目の当たりにしたときは感慨深かった。

あれから19年。そんな光景が再び起こるかもという気はする。4年目の戦いを続ける指揮官・矢野燿大は今季限りでの辞任を表明している。球団も現状、それを受け入れているようだ。あのときのように前監督と新監督がそろって…ということも不可能ではない。

とはいえ事態は簡単ではない。さすがに逆転優勝は奇跡的すぎるかもしれないが、貯金をつくって2位に入り、クライマックスシリーズを勝ち抜いて日本シリーズに出場する可能性はそれなりにあるはず。

そこで「日本一」となったらどうなるのか。以前も書いたが、そのときに球団が矢野に「ご苦労さま」と言えるのかどうか。留任を望んでも矢野が辞めてしまえば仕方がないけれど、そこまで強硬だろうかという気もする。なによりややこしいのは次期監督だ。星野の後を受けた岡田もやりにくかったと思う。

「ここから本当にすごい奇跡やドラマが起こるとなれば、とんでもないことになると思う」。後半戦開始を前に矢野は虎番キャップたちにそう話したようだ。本当に何かが起こったとき、間違いなく、とんでもないことになる。

奇跡が起こって阪神が勝てば、ここは矢野がもう1年やって、次はそれこそ新庄剛志を…なんてことになれば最高に面白いなどと妄想しているのだが。いずれにせよプロ野球はドラマがなくては面白くないのだ。さあ後半戦。最後まで何かが起こるとドキドキさせる戦いを見せてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)