指揮官・矢野燿大が「奇跡を」と口にして始まった後半戦。勝つと負けるとでは大違いの一戦に阪神は勝った。おまけにいいところばかりが目立つ内容で首位ヤクルトを圧倒。今季初の「貯金1」とし、ヤクルトの優勝マジックを消した。

快勝に気をよくして能天気な話を許していただければ30日から阪神3連勝、ヤクルト3連敗で阪神の自力優勝が復活する。ここでカード3連勝を決め、さらに長期ロード開始の8月2日・巨人戦(東京ドーム)に勝ち、その日にヤクルトが苦手にする中日に負ければ…という話だが「奇跡」と言うなら、まず、そのぐらいの勢いは必要だろう。

それにしても雰囲気を感じる試合だ。しびれたのは1回。近本光司の適時打で1点を先制した後、無死一、二塁で二走・島田海吏、一走・近本がズバリ重盗を決めた。これこそ「オレたちの野球」=「超積極的野球」の基本だろう。そして大山悠輔に適時打が出て、糸原健斗のゲッツー崩れで計3点ときた。

4回には矢野が「ラッキーボーイになってほしい」と期待するロドリゲスにタテジマ1号が飛び出す。その瞬間、甲子園のムードは大げさでなく「奇跡」を信じる気配に包まれた。さらに8回、大山の21号ソロ、ロドリゲスの適時打とダメ押しの2点。投げては西勇輝からの無失点リレーだ。

だけど水を差すつもりはないが大事なのは「次」だろう。勝ったから目立たないけれど反省点もあった。4回の守備でロドリゲスが一塁を踏めなかった失策はちょっと苦しかった。攻撃面でも7回、4番手コールから1死二、三塁の好機をつくりながら後続がなかったのは拙攻といえる。流れで見れば、大山の1発がなければ怪しいムードになっていたかもしれない。

連勝というかグッと上がっていくためには「打つ・投げる」の技術面は当然として、相手にスキをみせて妙なムードに陥ることだけは絶対に避けたいはず。

「ウチには1試合1試合が本当にドラマを起こすための大事な1勝1勝の積み重ねになるので」。矢野はそう言っていたようだが「1勝」の前に浮かれず、やるべきことをやることが何よりも大事だと思う。

このヤクルト戦を最後に高校野球に本拠を明け渡し、しばし甲子園を離れる阪神だ。虎党に奇跡を信じさせての“旅立ち”とできるかどうか。楽しみである。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 5回の守備に就いたロドリゲスはファンの声援に応える(撮影・前岡正明)
阪神対ヤクルト 5回の守備に就いたロドリゲスはファンの声援に応える(撮影・前岡正明)