勝負手か。ギャンブルか。指揮官・矢野燿大は3点ビハインドの7回裏、プロ初の「二塁・佐藤輝明」を決断した。もちろん8、9回の攻撃でもう1度、佐藤輝に回そうという考えだ。結局、佐藤輝に5度目の打席は回らなかったので結果的に意味はなかったかもしれない。それでもなんとか得点の可能性を追求した狙いは分かる。

試合前からも「勝負」はしていた。前日にこのコラムで中日・大野雄大に強い打者は誰かということで糸原健斗、陽川尚将、そして佐藤輝明の名前をあげた。はたしてこの日、阪神ベンチは糸原を2番に上げ、大山悠輔を右翼に回してまで陽川を一塁スタメンで起用してきたのである。

糸原は4打数無安打に終わった。だが陽川は6回に2点適時二塁打し、大野雄を降板させた。前日まで阪神に対する大野雄の防御率は「1.53」。この日は陽川の活躍もあってなんとか2点を奪えたので、その意味ではこのスタメンは正解だったと言える。

阪神にとって誤算になってしまったのは先発投手の方だった。西勇輝は立ち上がりから簡単に安打を許し、3回までに被安打7の3失点。4回はマウンドまで行ったものの降板した。

「まあ、ちょっとね。波に乗る前にちょっとやられちゃった感じで…。ツメの方がちょっと」。不調か。故障か。虎番記者からの質問に矢野は歯切れの悪い様子で答えたようだ。西勇自身は降板後、テーピングした右手中指が見える感じでベンチに座る様子がモニターに映っていた。

試合前まで防御率「2.04」の西勇輝、中日にも強く、対戦防御率は「1.71」だった。ということは2回に2点目を許した時点で「計算外」になってしまった。もちろん選手は数字だけで戦っているわけではない。それでも投手コーチの福原忍がマウンドに来たときにそちらの方を見ないとか、投げているときの様子などから見て、この日の西勇はまるで話にならない印象だった。

勝負手、ギャンブルを打つのなら思い切って西勇を2回で降板させる手はあったかもしれない。3連戦の初戦を任せた先発投手にそんなことできるはずがないというのは当然だ。実際、できないだろう。それでも全員で勝ちに行く姿勢を、虎党はもちろん、チーム内に見せるためにもその手はあったのでは。そう感じた今季60敗目だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 6回表阪神1死、左前打を放つ佐藤輝(撮影・前田充)
中日対阪神 6回表阪神1死、左前打を放つ佐藤輝(撮影・前田充)
阪神対中日 中野(左)と二遊間の守備を守る佐藤輝(撮影・上田博志)
阪神対中日 中野(左)と二遊間の守備を守る佐藤輝(撮影・上田博志)
3回裏中日2死一、三塁、土田を打ち取った西勇輝は指を気にする(撮影・上田博志)
3回裏中日2死一、三塁、土田を打ち取った西勇輝は指を気にする(撮影・上田博志)
中日対阪神 4回裏中日攻撃開始前、投球練習をやめてマウンドを降りる西勇(撮影・森本幸一)
中日対阪神 4回裏中日攻撃開始前、投球練習をやめてマウンドを降りる西勇(撮影・森本幸一)