死闘であればあるほど勝敗の差は大きい。5時間17分の戦いを勝って終えた首位ヤクルトはますます意気上がるはず。負けた阪神は苦しくなったとしかいいようがない。心身とも疲れも残るし、Aクラスが危なくなってきた。いよいよピンチである。

試合内容そのものは絶望的ではなかった。エース青柳晃洋が今季最多5失点で6回で降板。それでも打線は粘って、青柳の黒星だけは消す。ブルペンも勝ちパターンの岩崎優、湯浅京己、それにケラーと「勝利の方程式」はなんとか無失点でこらえた。

もつれた試合では両軍の守備にミスも見えた。阪神最大のそれは同点の延長10回、2死一、二塁か。長岡秀樹の当たりは遊ゴロと思われた。しかし前に出てきた中野拓夢がこれをそらす形で打球はセンターへ抜ける。これで1点を勝ち越された。その裏、原口文仁の代打適時打で追いついたが岩貞祐太が投げたこのイニングを無失点でこらえていれば…と思ってしまう。

「オレの位置から、どうかというのは分からないけれど…」。指揮官・矢野燿大はそのプレーについてそう話すに止めたが少なくとも前に落とすことはできなかったか。もちろん雨が降り続くグラウンド状態もあっただろうし中野だけを責めることはできない。それでもこういうところでピシッと守れば遊撃手としての評価も上がるのに。もったいないと思ってしまう。

7回にも記録に残らないプレーがあった。2死から山崎晃大朗は左前への当たりで二塁を狙う。しかし左翼手・大山悠輔が内野手ならではの素早い送球を二塁へ。これであわてて一塁へ戻った山崎だが捕球した二塁手・山本泰寛の一塁送球が浮いてしまう。

しっかり投げていれば刺せたように見えた。2死満塁になって岩崎優がこわい村上宗隆を三振に切り、無失点でしのいだ。それでもうまく守れば、このピンチは未然に防げ、流れも変わったのではないか。

守備が課題なのは阪神でずっと言われていることだ。特に重要な局面で痛いミスが出る印象は強い。ここを鍛えるにはどうすればいいのか。半年以上前になった春季キャンプ。視察した広島3連覇監督・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)は「練習のための練習になっていないだろうか」と指摘していた。そんな言葉がこの最終盤、この死闘で思い出されてしまう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト 延長の末、ヤクルトに敗れ時刻は11時20分を指そうとしていた(撮影・和賀正仁)
阪神対ヤクルト 延長の末、ヤクルトに敗れ時刻は11時20分を指そうとしていた(撮影・和賀正仁)