みちのくのドクターK、秋田商の「石川2世」成田翔(かける)投手(3年)が、16奪三振完投で16強一番乗りに導いた。最速142キロの直球にスライダーを織り交ぜ、3安打完投で3-1で龍谷(佐賀)を破った。

 秋田商・成田翔がその名を全国に知らしめた。春の九州王者・龍谷から、自己最多にあと3と迫る16奪三振。初回の先頭打者から4者連続とエンジン全開で、5回までに10個のハイペース。6回のピンチを切り抜けてベンチに戻ると、太田直監督(36)から「球が落ちてきている」と言われ、再び心に火が付いた。ギアを入れ直すと再び球威は戻り、9回はまたも3者三振で締めた。

 身長168センチと小柄だが、強気な投球でマウンド上では大きく見える。序盤から最速142キロ直球で押した。中盤以降、それを狙われていると感じたが、「それで打たれたらそこまでのピッチャー」とあえて直球で勝負した。いつもなら縦に落ちるスライダーで大半の三振を奪うが、この日は9個が速球だった。

 昨秋の県大会後に右手首を骨折した。完治するまで、短距離走と長距離走をまじえた走り込みを2カ月間も続けた。「それが生きていると思う」と下半身が自然と強化され、1年時に120キロ台前半だった球速は、最速144キロまでアップ。武器のスライダーの切れも増した。今夏の秋田大会は5試合39回を投げて55Kの奪三振率12・69。「ピンチでは三振を狙っている」とまで言い切る。

 秋田商には、OBで同じ左腕のヤクルト石川に憧れて入学した。身長はほぼ同じで「石川2世」とも言われる。成田翔は「コントロールの良さを参考にしている」と話す。97年夏の甲子園で石川とバッテリーを組んだ太田監督は「三振が欲しいところで三振が取れる。石川の高校の時より球が速いし、体の強さがある」と評価する。

 3安打1失点完投で、18年前の偉大な先輩に並ぶ甲子園1勝を手にした。60年春にベスト4がある同校の夏の最高成績はベスト8。「もう1つ2つ上にいけるように、自分のピッチングをしたい」。どこまでも強気なエースが、チームの歴史を変える。【久野朗】

 ◆成田翔(なりた・かける)1998年(平10)2月3日、秋田市生まれ。保戸野小4年から野球を始め、投手と一塁手。秋田東中では軟式野球部に所属し投手。秋田商では1年春からベンチ入り。同年夏の甲子園では初戦2回戦の富山第一戦で8回から救援して2回無失点。家族は両親と妹、祖父母。左投げ左打ち。168センチ、68キロ。血液型B。