花咲徳栄(埼玉)が仙台育英(宮城)との優勝経験校同士の一戦で、完封負けを喫した。代表49校目の大トリ登場となったが、白星を手にすることはできなかった。
岩井隆監督(56)にとっては次男・虹太郎内野手(3年)との最後の夏でもあった。甲子園V経験のある監督として、息子との野球は簡単ではない。「虹太郎にだけ厳しくするのだってできない。特別扱いになるから」。入学直後から普通に、他の部員たちと同様に接してきた。
強くなる世代だと期待していた。春だったか初夏だったか、入学してしばらくしてから1年生部員だけの練習機会があった。ネット裏で眺めていた岩井監督が突然「集合ぉ!!」と声を張った。守備練習を中断し、1年生全員がベンチ前に体育座りで、緊迫の表情で監督を待つ。
「おまえ、さっき何て言った?」
静かな声で1人、2人と特定の部員に問いただす。練習でミスした部員の名前を挙げながら「さっきひどい言葉であいつのこと、バカにしてたよな。おまえら、そんなにえらいのか? 中学の時にうまかったのか知らんけど、おまえら、そんなにえらいのか? 一緒に野球をやってる友達に向かって、そんなこと言っていいのか!?」
静まる1年生たち。岩井監督は続ける。
「虹太郎!!」
その時ばかりは息子の名を叫んだ。
「おまえら、こんなんで甲子園行けると思ってんのか!? 友達をバカにしたりして、そんなんで強くなるって思ってるのか!?」
息子はほんの少し、目をうるませながら「いえ!!」と父に叫ぶ。
岩井監督は倫理や社会科を授業で受け持っている。野球部でも青少年の人格形成を第一義に挙げる。「人として」があってこその、毎日の学校生活に部活動。腕に自信を持つ有名中学生たちが集まるチームだからこそ、何よりも“みんなの中の自分”を意識させながら1つに束ねていく。
17年の全国優勝も含めて“花咲時代”を予感させたが、コロナ禍で失速した。復活を感じさせる春夏連続出場。負けて1つの世代が終わると、岩井監督はたいてい「またやり直します」と口にする。いつの間にか1つになって、抱き合う教え子たちを見守りながら。【金子真仁】

