<高校野球神奈川大会:慶応14-1白山>◇18日◇3回戦◇等々力球場

 落ち着いていた。5回表2死満塁。慶応・吉沢恒輝外野手(3年)はふうっと一息をついて打席に立った。吉沢は「余裕があったし、球がしっかり見えていた」と冷静に振り返る。じっくり相手の配球を見極めた6球目。待ち望んでいた外めの直球を思い切り振り抜いた。4本目の適時打を右前に放ち、走者を一掃。この日7打点を挙げる大活躍だった。

 実力で道を切り開いた。元阪急の父俊幸氏(57)兄翔吾さん(20=早大)はともに日大三で甲子園に出場し、早大に進学。当然、周囲も恒輝が同じ道を歩むと期待していた。しかし、慶応入学を決意する。偉大な父と兄の実績にとらわれない環境に身を置き、野球だけに集中したかったからだ。「将来的には6大学にも行きたいし、2人とは別の道で甲子園に行きたいと思っていた。それに、激戦区と呼ばれる神奈川で野球がしたかった」と理由を明かす。自宅のある草加市から学校まで電車で約2時間。後ろ盾のない神奈川ではい上がってきた。

 「こんなにすごいメンツでレギュラーを取れたことは自信につながっている」と笑う。それは尽きることのない向上心のおかげでもある。今冬からウエート強化に取り組み、10キロの増量に成功。中学時代には陸上部に所属し400メートルリレーで全国7位に入ったスピードに加え、強靱(きょうじん)なパワーも手に入れた。レギュラー奪取のために無我夢中で野球に打ち込んだことが、この日の4打数4安打につながっている。「今日だけは喜んでいい日だけど、うぬぼれないようにする」。上を見続ける青年に慢心の気持ちはない。【松田直樹】

 ◆吉沢恒輝(よしざわ・こうき)1994年(平6)4月12日、埼玉県草加市生まれ。4歳から野球を始める。長栄タイガース、越谷シニアでは主に内野手を務めた。高2冬から中堅手に転向。50メートル6秒0という俊足の持ち主。好きな食べ物はタン塩で、AKBの推しメンは大島優子。175センチ、75キロ。右投げ右打ち。