<全国高校野球選手権:桐光学園7-5常総学院>◇16日◇2回戦

 桐光学園(神奈川)の松井裕樹投手(2年)が、またも大記録を打ち立てた。2回戦で強打の常総学院(茨城)を相手に毎回の19三振を奪い、5失点ながらも完投勝利。10者連続含む22奪三振の大会新記録を樹立した1回戦(対今治西)と合わせ、2戦合計で41個の三振を奪った。板東英二(徳島商)の2戦40個を抜き、これまた大会最多を更新。勝ち進めば、板東の持つ83個(6試合)の大会通算記録にも手が届く勢いだ。

 まるで1週間前のリプレーだ。バットが空を切るごとに高まるボルテージ。どよめくスタンド。対照的に、クールな松井…。「(三振は)数えてないです。四球が失点につながって、全然良くなかった」。今治西戦(9日)の22奪三振に続く、19奪三振。歴代2位タイ記録だが、数を聞いてもうなずくだけ。またも全くとんちゃくしなかった。

 18イニング連続で積み上げた三振は41。当然、史上最多となった。初戦の「1試合22K」「10者連続K」に続く3つ目の金字塔。相手は、1回戦で14得点した強打の常総学院だった。縦の高速スライダーは無敵で、もはや“歩く新記録”。「注目されても気にしない。チームが勝てばそれでいい」。冷静な本人をよそに、甲子園は松井の登板直後に満員札止めとなった。

 もっとも、苦しい場面もあった。8回。疲労で常総打線につかまり、3点を返され2点差。だがなおも2死二塁のピンチで、左腕は打者だけをにらんでいた。背中の走者に見向きもせず「最後は三振を狙いました」。目いっぱい外角を突いた142キロで空振り。この時ばかりは感情むき出しで、雄たけびを上げた。

 投げっぷりの良さは、野呂雅之監督(51)の指導方針に集約される。「彼に打ち取る投球は望んでません」。松井の良さは腕が振れること。だから「どこに打たせようとか、けん制とか、考えて振りが半減したら魅力がなくなります」。この日も終盤に3盗塁されたが、走者はいいから打者勝負。けん制もクイックも「苦手」な左腕が思いきり振り抜けるよう、野手も全員でカバー態勢に入るのだ。

 ユニホームにも秘密がある。神奈川大会後、“松井仕様”に新調。校名や校章部分をワッペンからプリントに変えた。以前は左袖の校章が面ファスナー式で、投げるたび「ピリッ」と音がして気が散った。メーカー担当者によれば重量も従来の3分の2と軽量化。試合帽も、今年からフィットする丸帽にした。昨年は1球ごとに帽子を振り落としていた松井も、これで投球に集中できるようになった。

 このペースでいけば、58年に徳島商・板東英二が記録した大会通算83奪三振も射程圏内。83の記録を知っているかの問いに「え?」と目を見開いた16歳は興味なさげだが、1回戦で使わなかったチェンジアップとフォークを解禁するなど、先を見据えて投球の幅を広げている。「(引き出しは)まだあります」。ニヤッと笑った松井は実に大胆不敵。3回戦の浦添商戦でも、何かやってくれそうだ。【鎌田良美】<松井裕樹アラカルト>

 ◆生まれ

 1995年(平7)10月30日、横浜市出身。家族は両親と弟

 ◆球歴

 小学2年で野球を始め、3年から投手。6年時に横浜ベイスターズジュニアで12球団ジュニアトーナメント出場。中学3年時に青葉緑東リトルシニアで全国制覇。桐光学園では1年秋からエース。左投げ左打ち

 ◆球種

 カーブ、スライダー2種、フォーク、チェンジアップ

 ◆サイズ

 174センチ、74キロ。胸囲95センチ。視力右1・2、左0・8

 ◆憧れ

 巨人杉内。リリースまで力まない投球を参考にしている。幼少時好きだったのは巨人高橋由

 ◆名前の由来

 「松」の「樹」に豊か(「裕」)に葉っぱがつくように

 ◆好きな芸能人

 武井咲

 ◆趣味

 音楽鑑賞。移動のバスで聴くのはケツメイシの「君とつくる未来」。EXILEもお気に入り

 ◆好きな食べ物

 焼き肉、ギョーザ、そぼろご飯。牛乳は1食で1リットルくらい飲む。寮の冷蔵庫には常時4パックほど買いだめ。野菜は全般嫌い

 ◆好きな漫画

 「ワンピース」

 ◆左利き

 箸、習字、裁縫、包丁などすべて左