<全国高校野球選手権:光星学院3-0桐光学園>◇20日◇準々決勝

 今夏最も甲子園を沸かせた男が、大記録とともに聖地を去った。桐光学園(神奈川)・松井裕樹投手(2年)はセンバツ準優勝の光星学院(青森)から15三振を奪い、4試合連続の2ケタKをマーク。史上初めて、同一大会で3度目の毎回奪三振を達成した。通算68奪三振は板東英二(徳島商)、斎藤佑樹(早実)に次いで歴代3位に浮上。6安打3失点で敗れはしたが、「最強ドクターK」は涙で来年の全国制覇を誓った。

 こんなに号泣したのは初めてだった。ネクストバッターズサークルで終戦を見届けた松井は、支えがなければ立てないほど泣き崩れ、肩を震わせた。「行くぞ。お前はすごく頑張った」。先輩捕手の宇川の言葉に申し訳なさが込み上げた。

 「ずっと引っ張ってきてくれた3年生に申し訳ない。後半体力が落ちていて。自分の力不足です」。互いに無得点の8回2死一、三塁。全国屈指の好打者、光星学院・田村に、内角直球を左前打された。コースは完璧。決して失投じゃなかった。ただ「もっと球威があれば良かった」。続く4番北條にもスライダーを二塁打され、3点を失った。

 今大会初の連投。2日間で296球を投げた。銭湯、酸素カプセル、マッサージ。可能な限りケアに努めたが、「朝から腕が振れないほど体が重かった」。147キロ左腕の球速は徐々に落ち、試合後半には131キロの直球もあった。

 しかし、そんな状態でも“十八番”の奪三振は圧巻だった。先頭打者に二塁打を許した1回。2番を見逃し三振とすると、今大会三振ゼロの3番田村に内角低めスライダーを振らせ空振り。4番北條には5球すべて内角をつき、高めの直球で空振り三振に切った。3回戦まで外角攻めばかりだったが「今日はインコース。自分の引き出しをすべて使いました」。相手打者全10人から三振を重ねた。

 初戦から注目され続けた。練習先でも宿舎でも、見知らぬ人から声を掛けられるようになった。重圧の中で通算68奪三振、奪三振率17・0と驚異的な結果を残した。でも、まだ足りない。「下半身をつくりなおして、1人で投げきれるようになって戻ってきたい。甲子園の野球はすごく楽しかった。レベルアップして、来年は優勝したい」。口数の少ない松井が、はっきり口にした野望。甲子園の土は持ち帰らなかった。真夏の聖地を席巻した「最強ドクターK」の物語。今はまだ、序章にすぎない。