2013年4月2日、テキサス州ヒューストンでアストロズ戦に先発したレンジャーズのダルビッシュ有は、9回2死までパーフェクトでした。あと1人で完全試合達成でしたが9番打者のマーウィン・ゴンザレスの放った打球は、ダルビッシュの股の間を抜けていきセンターまで到達、目前で快挙を逃しました。

日本人投手初の快挙を祈りながら、幕切れに選んだ撮影ポジションは三塁カメラマン席(レンジャーズベンチサイド)のインコース。投手の後方に外野のスコアボードが絡み完全試合を表現するにふさわしい、と判断しました。また、この試合ではセンターの中継テレビカメラのそばに600ミリレンズを付けたリモートカメラを設置していました。

リモートカメラとは、内野のカメラマン席から私がシャッターを切るとカメラに着けたリモコンから電波が飛び、受信したセンサーがリモートカメラのシャッターを切るシステムです。多少のタイムラグがあるもののシャッターはほぼ同時に切れます。撮影対象によって設置場所は違いますが、私の場合は最大3台のリモートカメラを設置し、手持ちカメラからコントロールをしています。

9回2死。私の描いた達成時の写真は手持ちの70-200ミリズームレンズで

<1>最後の1球

<2>ガッツポーズの後方にスコアボード

<3>捕手との抱き合い

<4>チームメートからの祝福ワイワイ

をズーム1本で撮りきる、でした。

しかし、打者ゴンザレスの打球が股の間を抜けた瞬間、ビックリした私は「手持ち」でもあるにも関わらず跳び上がってしまいました。ダルビッシュは外野を向いて残念そうに両手を広げましたが、背中しか見えません。

「あっ、やってもうた」。ダルビッシュではなく私です。決定的瞬間をブラしてしまった事は、チェックしなくても分かりました。

試合後の会見取材を終え、「マジでやばい、何も絵がない」と1人涙目になりながらリモートカメラのあるセンターに向かいました。ダッシュでした。不安な時間を少しでも和らげようと猛ダッシュでした。センターに到着します。そして最後の祈りを込めて、ゆっくりと冷静に9回2死からデータのみをチェックしました。

あった!私がブラしたボールが抜ける瞬間の写真です。手を広げ悔しがる顔が見える写真です。それも欲していたサイコーの写真でした。神様、仏様、リモコン様様、の瞬間でした。

長いカメラマン人生の中、時にはこのようなシーンにも遭遇します。何が起きても冷静に、平常心を保って撮りたい!と心に誓い、「文明の利器」リモコン様に感謝しました【菅敏】(ニッカンスポーツ・コム/WBBコラム「カンビンの早く観たい撮りたい伝えたい」)

9回裏2死、アストロズ・ゴンザレスの打球がダルビッシュの股間からセンターに抜け、完全試合を逃す(2013年4月2日撮影=菅敏)
9回裏2死、アストロズ・ゴンザレスの打球がダルビッシュの股間からセンターに抜け、完全試合を逃す(2013年4月2日撮影=菅敏)