ほとんど無名な存在から大ブレイクし、話題を集めている新人がいる。レッズのアリステーディス・アキーノ外野手(25)だ。主要な「プロスペクト・トップ100」にも入っておらず、プロスペクト通でもない限りは「誰?」と思うような選手だったが、8月1日に初昇格してから驚異的ペースで本塁打を量産。8月16日にはメジャー16試合目で10号本塁打を放ち、史上最速で2桁本塁打に到達した。

ドミニカ共和国出身で17歳でレッズと契約しプロ入り。16年に1Aのフロリダステートリーグで年間最優秀選手に選ばれたものの、それ以外にマイナーで目立った実績がない。彗星(すいせい)のごとく現れたこの新人に米国も驚いているようで、MLB公式サイトの記者でさえ「誰なのかよくは知らないが、アキーノはもしかしたら史上最高の選手かもしれない」と書いていた。

そんなアキーノが今季大ブレイクしたのは、運命的な出会いがきっかけだ。今季からレッズの打撃コーチ補佐に就任したドニー・エッカー氏が、昨季までカージナルスのマイナーでコーチをしており、数年前に対戦相手として試合で初めてアキーノを見て、その潜在能力にほれ込んだ。縁あって今季から同じチームとなったとき、何とかその才能を開花させようと春のキャンプで打撃フォームを大改造。昨季までごくオーソドックスなクローズスタンスだった構えを、極端なオープンスタンスに変えさせた。その構えの激変ぶりはまるで別人のようで、この大改造がブレイクにつながったことは間違いない。

これだけの大胆なフォーム改造を敢行するというのは、コーチとの間によほどの信頼関係がなければ踏み切れないだろう。

ところがエッカー氏は、メジャーの指導者としてはまだ何も実績がなく33歳と若い。しかも現役時代は、07年ドラフトでレンジャーズから22巡目指名を受けプロ入りしたものの、下級のマイナーで36試合に出場しただけで退団し、プロ経験はほとんどないといっていい。無名で実績もない何者でもないコーチが、どうやってアキーノを動かしたのか。

エッカー氏は「彼がどれだけすごい選手になる可能性を秘めているか。彼がいかに、チームを変える影響力のある選手になれるか。最初にそれを一生懸命に説いた」という。最近、メジャーにはプロ経験がほとんどない無名コーチが増えているが、彼らはデータを駆使した理論派が多く、確実に結果につなげているため重用されており、エッカー氏もそんなタイプのコーチの1人。その理論と選手育成への情熱がアキーノに伝わり、奇跡のような大ブレイクを起こしたのだろう。無名選手と無名駆け出しコーチによる、夢のサクセスストーリーである。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)