MLBは今、エンターテインメント化の流れに急速に進んでいるのだろうか。まだオープン戦の最中だが、試合中の選手にマイクを装着させ、プレー中のつぶやきや会話を拾って放送するテレビ中継が増えている。先日行われたカブス-エンゼルス戦では、カブスの2枚看板であるアンソニー・リゾ(30)、クリス・ブライアント(28)両内野手が試合の最初から最後までマイクを装着し、さまざまな場面での2人の会話が中継で流された。2人並んでベンチで音楽の話で盛り上がり、リゾがよく聞く曲を口ずさむ意外な素顔を見せ、打席に入るときは「投手が何を投げてくるか、今、頭の中で計算しているところだよ」とちゃめっ気のあるつぶやきも披露。守備中に、実況席と会話をする場面もあった。

そんな放送が好評を博しており、米メディアでは「試合中のマイク装着はもっと増やすべき」との意見が多数上がっている。しかしいくら何でもレギュラーシーズン中にそんなお遊び的な演出はできないだろうと思いきや、昨季新人王に輝きメジャーのトップスターの仲間入りをしたメッツの一塁手ピート・アロンソ(25)が、今季レギュラーシーズン中の何試合かで、一塁ベース付近にマイクを設置し試合中の会話やつぶやきを「公開」することに決まったという。MLBとスポーツ専門チャンネルESPNが共同で行う試みだ。オープン戦のように試合中に終始マイクをオンにしておくわけではないかもしれないが、相手チームの選手が一塁に出塁したとき、アロンソとその選手のベース上での会話が試合中に流れるようになる。

メジャーでは、試合中の選手やコーチの声を拾って中継中に一部流すという演出はかなり昔からあった。日本人選手では唯一、03年にメッツに所属していた新庄剛志氏(48)がそのマイクに声が拾われ試合中に放送されたことがある。ジャイアンツ戦で一塁に出たとき、前年にチームメートだった一塁手J・T・スノーがマイクを装着しており、新庄がスノーに聞かれるまま「来年は日本に帰る。戻ってムービースターになる」とコメントしたことが、ユニーク発言として結構話題になった。最近でも一部のテレビ中継でそのような演出は継続されているが、試合中のほんの一部、それもマイクで拾った会話を編集し後で番組中に挿入するという形式で、わずかな試合に限定されていた。

しかしそれが今季はマイク装着の演出が大幅に増え、レギュラーシーズン中はESPNの中継でアロンソ以外にも何人かがマイクを装着することになりそうだ。オープン戦では編集して挿入する形式ではなくリアルタイムで会話やつぶやきを流しおり、レギュラーシーズン中もそれを行うならかなり画期的。野球という試合が「リアリティーショー」化されるといってもいいかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)