ドジャース戦の9回に登板したロッキーズのバード(AP)
ドジャース戦の9回に登板したロッキーズのバード(AP)

60試合のシーズンが早くも終盤に近づき、米メディアでは賞レースに注目が集まっている。サイ・ヤング賞のナ・リーグはカブスのダルビッシュ有投手(34)が有力候補といわれ、ア・リーグは開幕からいまだ無傷の7連勝と防御率1位を誇るインディアンスの先発右腕シェーン・ビーバー(25)が下馬評ではダントツ。MVP候補には、まだ2年目ながらチーム快進撃の立役者となっているパドレスのフェルナンド・タティス内野手(21)が誰よりも注目を浴びている。

もう1人「今季話題のサクセスストーリー」といわれているのが、カムバック賞の有力候補であるロッキーズの救援右腕ダニエル・バード(35)だ。09年にレッドソックスでデビューしたバードは、本格派投手として将来を嘱望され、新人の年からセーブの場面を任せられていた。ところが2012年頃から深刻なイップスに陥り、この2年間は現役を退いていた。

それが今季はロッキーズでいきなり現役復帰し、メジャーで投げるのは何と7年ぶり。それにもかかわらず最速100マイル(約161キロ)の剛速球を投げ、今や抑えに抜てきされるほどの存在になっている。これほどの復活劇には、なかなかお目にかかれない。

イップスに苦しんでいたバードが、最後にメジャーのマウンドに立ったのは2013年4月27日のアストロズ戦だった。レッドソックスで当時同僚だった田沢純一投手(34=現ルートインBC埼玉武蔵)からの継投で3番手で登板したが、先頭から2者連続四球を出して交代した。投げても投げてもストライクが入らずマウンドを降りる姿は当時、スポーツニュースで何度も流れたと思う。

その後、2017年までマイナー契約で4球団を渡り歩き復活を目指したが、イップスとそれに伴う不安症は治らなかった。この間にメンタル強化コーチの指導を受け、それまでとはまったく違うサブマリン投法を試し、瞑想(めいそう)や呼吸法などにも取り組んだが、それでもだめだったという。2018年は、ダイヤモンドバックスのマイク・ヘーゼンGMがかつてレッドソックスのフロントにいたつながりがあったことから、同球団で指導者にならないかと誘いを受け、現役を引退した。

指導者として再出発し、最初は若手の相談役兼メンタル強化コーチとして働いた。この指導が思いがけず、不安症とイップスを克服することにつながったという。指導するに当たり、投手とは投手とはどうあるべきかを深く思索し、それが自分自身を深く理解するきっかけとなり、不安症はなくなった。若い選手のキャッチボール相手を務めたとき、自分の球はまだ現役レベルだと感じ、復帰への思いが強まったという。それにしても2年のブランクをまったく感じさせない投球は、まさに奇跡的だ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

9回を締めたロッキーズ・バード(右)は捕手のディアスと拳を合わせる(AP)
9回を締めたロッキーズ・バード(右)は捕手のディアスと拳を合わせる(AP)