我を忘れて興奮してしまった。エンゼルス大谷翔平投手(26)が、DHを解除したリアル二刀流として「2番投手」で出場した4日(日本時間5日)のホワイトソックス戦。本拠地エンゼルスタジアム、一塁側後方の記者席からの光景は、この先も記憶に刻まれることだろう。衝撃、緊張、期待、ハプニング、とにかくいろんなことが起きた。

なんといっても、あの1発だ。第1打席、右中間へメジャーで自己最長となる451フィート(約137メートル)の特大弾。97マイル(約156キロ)のボール気味の高め直球を完璧に捉えた。その瞬間「あ、行った~」。思わず口にしてしまった。ボールが破裂するような打球音だけでも、ホームランと確信できた。続けて「いや~、打ったよ、これはすごい」とつぶやいたことを記憶している。ダイヤモンドを回る大谷を見ながら、どこか震えるような感覚だった。

凡打や安打にかかわらず、打った時は通常、スタジアムの電光掲示板に表示される投手の球速を記者席から確認する作業がある。それすら完全に忘れてしまった。大谷が、強烈な一撃で口にしていたことを体現した-。言い訳だが、その事実で自分自身の頭がいっぱいになっていた。

前日のオンライン会見で投打での同時出場について、大谷はこう言っていた。「自分で打った方が、得点が入ったときにもっとアグレッシブにマウンドでも攻めていける」。本当に、その通りの展開になった。

3回にはこの日最速の101・1マイル(約162・7キロ)をマーク。4回のピンチを切り抜けた際には、感情をあらわにガッツポーズした。投手としては118年ぶりに「2番」の打順に入った歴史的な試合で、大谷の潜在能力が解き放たれた。そんな印象だった。

さらに、2点リードの5回2死二、三塁。勝利投手の権利を得る目前、フルカウントから投じたスプリットに相手のバットが空を切った。空振り三振!と思いきや、捕手の後逸と失策で同点とされ、大谷は走者と交錯して転倒した。緊張感と期待が高まる中、想像もしない幕切れとなった。

大谷も感情豊かに投打で躍動した試合だったが、見ている側も五感をフル稼働した。個人的にだが、何物にも代え難い経験となった。一生の記憶に残る素晴らしい試合に、感謝している。【MLB担当=斎藤庸裕】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「ノブ斎藤のfrom U.S.A」)

三振を奪いほえる大谷(ロイター)
三振を奪いほえる大谷(ロイター)