「日本人選手は、なぜ『年俸などの金額にはさほどこだわらない』と言うのか?」

かつて、ある米国の代理人から質問されたことがありました。

確かに、メジャーを目指す日本人選手は、金額よりもプレーできる機会、住環境などを優先事項に挙げる傾向があります。このほどレイズと契約合意した筒香嘉智外野手(28)も、長期の大型契約ではなく2年契約を望み、毎試合出場できる可能性の高い球団を選択しました。

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12月9日から4日間にわたって開催されたウインターミーティングでは、次々と大物選手の契約がまとまりました。

初日にはワールドシリーズMVPのスティーブン・ストラスバーグ投手(31)が、7年2億4500万ドル(約270億円)でナショナルズと再契約。翌日には、ゲリット・コール投手(29=アストロズFA)が、ヤンキースと9年3億2400万ドル(約356億円)で合意。3日目はアンソニー・レンドン内野手(29=ナショナルズFA)が、エンゼルスと7年総額2億4500万ドル(約270億円)で契約するなど、史上最高額となる札束が飛び交いました。

この大物選手3人の契約を一気にまとめたのが「野球経済学の教授」とも呼ばれる超大物の代理人、スコット・ボラス氏でした。近年のデータ分析時代にいち早く対応し、膨大な資料をベースに理詰めで各球団GMと交渉。強気な姿勢を崩さず、一歩も引くことなく大型契約をまとめるのが、ボラス氏の手法と言われています。

そんならつ腕代理人も、日本人の金銭感覚だけは理解できないようで、ある時、雑談の中で疑問を投げかけてきたのです。

「同じアジア人でも、韓国人や中国系、台湾の選手は、お金が評価と考える。だが、日本人は違う。なぜなんだ」

確かに、プロである以上「評価=年俸」というのも事実です。ただ、日本人の根底には、露骨にお金に固執することを「はしたない」「見苦しい」とする考えがあります。日本人の美徳とも言えますが、ビジネスライクな米国人に正確に理解してもらえるとも思えません。

ということで、ボラス氏に対して、思いつくまま漠然とした答えを返しました。

「おそらく、日本人のベースには、サムライ・スピリッツ(侍の魂)があるからだと思う」

「タフ・ネゴシエーター」と呼ばれるボラス氏の、その時のキョトンとした顔は今も忘れられません。

「サムライ・スピリッツかぁ…なるほどなあ。何となく理解できるような気もするが、納得はできない。まぁ今後、サムライについて勉強してみるよ」

メジャーでプレーする以上、より高額条件を勝ち取るに越したことはありません。ただ、夢や目標をかなえることを最優先する日本人選手には、お金以上に、こだわり持ち、大切にするものがあるはずです。

昨今の日本人が忘れがちな「美徳」の大事さを、あらためて思い出した数日間でした。【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「四竈衛のメジャー徒然日記」)