ひと言で素晴らしかった。ビッグゲームになるほど力を発揮する持ち味を、田中は存分に出した。

直球の最速が92マイル(約148・1キロ)だったことからも、丁寧に投げた意識がうかがえる。全78球のうちスプリットを33球。序盤で「コントロールできている」と踏んで軸球に選択し、多投した。ホームランだけに注意して細心の注意を払い、1球1球集中して投げていた。4回、ボガーツには抜け気味に入った初球の直球を本塁打されたが、直後の5番モアランドに対しては全5球中4球、スプリットを徹底。しつこく低めに制球して散らし、空振り三振として流れを止めた。

「コントロールミスは絶対にしない」という執念が伝わってきた。78球とはいえ、普段以上の疲労があると思う。制球力が生命線の田中は、シーズン中も他の投手より10球ほど少なく降板するケースが多く、ベンチが気を使っている印象もある。加えて短期決戦では、少しでも怪しい兆しが見えるとすぐに降板させ、どんどん投手を突っ込んでいく。しかし、今回の5回3安打、1失点での降板は、意味合いが全く違うと見る。

ヤンキースベンチは、田中を中4日で第5戦に投入することを念頭に置いて、十分な余力を残して交代させることをあらかじめ決めていたはず。第5戦とは、2勝2敗の五分でボストンに戻る決戦。落としたら終わり…の大一番を万全の田中に託す。深い信頼を置いている裏返しだ。

15個のアウトを稼いで勝てる状況で渡し、御の字の仕事をした。ただ、ポストシーズンはこの先が本当の勝負。田中にはもっと大きな仕事が待っている。寸分の狂いもない投球を見せてくれると期待する。(日刊スポーツ評論家)