日刊スポーツ評論家の山田久志氏(70)が、現役を引退したマリナーズのイチロー外野手(45)をWBC次期監督に推薦した。オリックスやWBCで同じユニホームを着て戦い、2人は強い師弟関係にある。山田氏は秘話を明かしつつ、侍の指揮官としての活躍をイチローに期待した。

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イチロー本人から山田氏のもとにメールが届いたのは、ラストになった東京での開幕戦を控えた日だった。

山田氏 メールを見た時は「そういうことなんだ」と思った。はっきりは覚えていないが「残り2試合、多くのファンに応えられるようにプレーします」といった内容だった。「残り2試合…」。そう書いてあったから、日本で終止符を打つんだなと。

山田氏とイチローの付き合いは古い。内外で「50歳現役説」が知れ渡っているが、そもそもイチローが山田氏に打ち明けた心境を、山田氏がコメントしたのが伝わったものだ。

山田氏 野球選手イチローは非の打ちどころのない選手だった。人間イチロー? あの記者会見を聞いていても、メディアの人たちが理解したかどうかわからないが、人間イチローは誤解されがちなタイプだろう。なぜ? それは野球がすべてだったから。これはあくまでもわたし自身の考えだが、きっかけは阪神淡路大震災じゃないかな。

95年、未曽有の阪神・淡路大震災が起き、そのまっただ中、オリックスは「がんばろう神戸」を旗印にリーグ優勝。96年もリーグ制覇、日本一を成し遂げた。

山田氏 あの大惨事のなかの快進撃、その輪の中心にイチローはいた。野球人生のターニングポイントはあそこじゃないかな。「自分も変わらなくてはいけない」と思ったのではないだろうか。メジャー挑戦のときは「自分1人では日本の野球を盛り上げることは難しいです」と言ってきた。あるときから大局的な考えをするようになった。

山田氏はイチローが2年目で「鈴木」だった93年、ハワイのウインターリーグで、阪急の後輩でコーチだった弓岡敬二郎から紹介された。チームには田口壮もいた。仰木彬監督が「イチロー」に改名した94年から、オリックス投手コーチに就く。

山田氏 ピッチャーとしての野球理論を覆された1人だ。打者はこちらが投げるストライクを待つわけだが、イチローは自分がスイングできるボールは、すべて彼にとっての「ストライクゾーン」になる。

09年WBC、韓国とのファイナルで、原辰徳監督率いる日本は世界一を決める。ヘッド格の投手コーチだった山田氏は、イチローの相談役でもあり続けた。

山田氏 彼がわたしを慕ってるかどうかはわからない。でも絶対的に共通する点がある。「グラウンドでは美しくあるべき」。「山田さんの投球フォームは美しい」といわれたことがあるが、プロである以上、ファンから見られているわけで乱れていてはいけない。WBCでビジターの試合前にノックをやめようと提案したのはイチローだったと思う。プレーボールがかかる前、パーッとダイヤモンドに花のように散らばっていく。それが美しいという。

イチロー引退後の次なる舞台は想像がしにくい。

山田氏 昔かたぎで、古風、不器用で、野球しかない男だと思う。次のWBC監督に推薦したいね。MLBにだって顔が利く。サムライがサムライを育てる。そんな姿も見てみたい。