暑い夏が終わりを迎え、清涼を感じる秋に入った。今回の「SHO-BLUE」では芸術の秋にちなみ、アートとしてのドジャース大谷翔平投手(30)の魅力を掘り下げる。ミューラル(壁画)アーティスト「OVER ALLs」は数多くの大谷作品を手がけてきた。同社の社長兼プロデューサーの赤沢岳人氏(42)と副社長兼画家の山本勇気氏(44)は、自社のオフィスの外壁に感情を前面に押し出す大谷の壁画を描いた。人々はなぜ大谷を描くのかを探った。【取材・構成=平山連】
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何を叫び、怒り、訴えているのだろうか-。壁一面に描かれた大谷翔平。初めて見た時の興奮は、今もはっきりと覚えている。外苑前駅から神宮球場へ向かう足が止まった。今にも絵の中から大谷が飛び出してきそうな躍動感。ドジャーブルーが目立つカラフルな色彩とともに、強烈なインパクトが焼き付いた。脇には「BET MY LIFE(自分の人生を賭けろ)」のメッセージ。オフィスビルが並ぶ都市の一等地では異質に映ったが、記者の心をつかんで離さなかった。
壁画が描かれた場所は、アーティストの「OVER ALLs」のオフィスだ。作品が生まれた背景には、プロデューサーの赤沢氏と画家の山本氏の苦い記憶があった。赤沢氏は「あれは僕らの悔しさ、ここからやってやろうという気持ちを重ねた作品なんです」と力説する。
縁は深い。エスコンフィールドで大谷の壁画を担当するなど世間的にも大きな評価を受け、今度はロサンゼルスで大谷関連の作品を世に出す機会を模索した。しかし、提案書やラフ画を作ってアプローチを重ねるも交渉は難航。ひとまず断念する形となった。
転んでも、ただでは起きない。それなら会社の外壁を使おう。何のしがらみもなく、描きたい大谷を描こうと開き直った。
山本氏 (オフィスの)退去時は原状回復しなきゃダメなんですけど「ロスで描けないなら、描けるところに描いてしまおう」という感じでした。
赤沢氏が中心になって打ち合わせを行い、外壁にどんな大谷を描くかを話し合った。表現したいことを言葉やラフ画に落とし込み、迎えた3月21日未明。終電後の時間を利用し、山本氏がスプレー缶を握る。23年WBCで世界一に導いた勇姿を参考に、壁一面をキャンバスにして色をのせていく。悩むことはない。わずか2時間で描き終えた。
赤沢氏 大谷選手のアート作品のほとんどが、クールでハンサムな顔をしてますよね。でも、僕らが大谷選手のいろんなドキュメンタリーを見たとき、彼は野球小僧がそのままデカくなった感じに見えた。怒るし、ほえるし、笑うし。むちゃくちゃ人間味がある。野球は毎日が勝負の連続。“凶暴な大谷”は誰も描いてないから、ほえてる表情を描こう。それこそが、ロス行きがなくなった僕らの気持ちに似てる。
二刀流を筆頭に常に想像の上をいく大谷。2人が唯一無二の存在に対して抱くイメージは-。「ピュアさとストイックさを兼ね備え、『週刊少年ジャンプ』が毎日読めるような楽しみを与えてくれる」(山本氏)「成功も、失敗も、全てを背負い込む起業家のような存在」(赤沢氏)。作品を生み出すことで、2人なりの大谷像がより深まっている印象を受けた。
現実離れした大谷という存在には、優れたアート作品に通じるところがあるという。見た人たちに「分からないけど、何だかすごい」(赤沢氏)と想像を超える驚きや衝撃を与えてくれることだ。レオナルド・ダビンチの「最後の晩餐」やピカソの「ゲルニカ」など時代を超えた名作にも当てはまる。言葉が追いつかなくなるような感覚だ。
赤沢氏 「WOW!」と驚くアート作品は最初に「すごい」という感情を抱き、次第に「分からない」に行き着くと思うんです。今の時代は何でも分かろうとするけど、分からないことを分からないままにしておくのはすごく大切なこと。すごいけど、何ですごいのか分からない。いちいちそこに言葉を求めないで、感性に従ってもいい。「すげぇ~けど、分からない」と感じたアート作品はいつまでも自分の記憶に残って離れない。それは大谷選手にも通じるところがあるんじゃないでしょうか。
米国人画家ロバート・バーガス氏がLAの日本人街「リトル・トーキョー」に壁画を描いたり、現代ポップアートの画家ロメロ・ブリット氏も肖像画を描いたり。大谷が単なる有名人だから描くということだけではなさそうだ。アーティストとして、強烈に引きつける何かがあるのだろう。
魅了されているのは、OVER ALLsもしかり。諦めきれない夢をつかむべく、今度こそLAで大谷の壁画を描くことを目指す。2人にとって、悲願だ。
山本氏は「まだ満足したものは1度もできていない。作品の99%以上が大谷選手の力によって受け入れられている」と感じてきただけに、その割合を「50:50に持って行けたら」と制作に励んでいる。「今度はじかにお会いして、どんな気持ちでプレーされているのか話すことができたら。そこで聞いたイメージを落とし込むことが、僕らのやり方ですから」。大谷の奥底に、もっと潜り込みたい純粋な追究心がある。
分からないけど、すごい。すごいけど、分からない…。いや、むしろ、はっきりとした答えなんかない。アートと大谷には言葉で言い尽くせない魅力が隠されている。
◆OVER ALLs(オーバーオールズ)2016年結成、年間40作品以上を手掛けるミューラル(壁画)アーティスト。大谷翔平やジーコなどアスリートの壁画アートをはじめ、ミューラルの力で人々を表現者に変えることを目指しさまざまな作品を生み出し続けている。「情熱大陸」など多数メディアにも出演。大谷関連の作品ではエスコンフィールド北海道で2点、HUGO BOSS×大谷翔平、社内の壁画2点など計5点の制作を行った。



