今季メジャーデビューを果たしたアストロズ今井達也投手(28)は、どんな思いで米国1年目に挑んでいるのだろうか。2戦目で初勝利を挙げた一方、3戦目後には「右腕の疲労」で離脱。復帰までに約1カ月の期間を要した。環境や文化の違いに戸惑い、メジャーの壁にも直面した。それでも、日本で培った技量、信念を貫こうとする、真っすぐな姿に迫った。
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胸に秘めた覚悟を伝える言葉に、余計な飾りは不要だった。5月12日の復帰登板後、クラブハウス内で日米報道陣に囲まれた今井は、正面を見据えたまま、自らの「今」、そしてこれからへの決意を、淡々とした口調のようでいて、ストレートな言葉をつないだ。
この試合では、速球とスライダーの2球種だけで全80球を組み立てた。その結果、2ラン、満塁弾といずれもスライダーを打たれ、4回で降板。初黒星を喫した。地元メディアからは、チェンジアップやスプリットなど他球種の必要性について質問が相次いだ。だが、今井には、現時点では譲りたくない「線」があった。こだわりは、「日本でやってきたこと」だった。
自ら「スライダーでカウントを取って、スライダーで空振りを取る投手」と表現するほど、投球スタイルはシンプル。プロ入り以来、その攻撃的な投球で国内外の評価を上げ、昨オフ、ア軍と3年総額5400万ドル(約86億4000万円)の契約を結んだ。
「あまり成功するとか、しないとかというより、それを評価されてアストロズに入団した。まずはそこをやってダメだったら、そこからいろんな球種を増やしたり、というのが順番なのかなと思っています」。
決して、我を張ったり、意固地になっているわけではない。元々、細かい制球力で打ち取るのではなく、速球とスライダーの勢いで力勝負するタイプ。もちろん、それだけで生き残れるほど簡単な世界ではない。ただ、自己流がどこまで通用するのかを、肌で感じない限り、今後の野球人生で前には進めない。
「ほぼ投球割合が真っすぐとスライダーで、日本でプレーしてきた。日本でしてきたことをメジャーリーグでもやって、しっかりと自分の投球をしたい」。
細分化されたデータ通り、米国流へ器用にアレンジすれば、迅速な適応力と評価されるかもしれない。だが、それは本意ではなく、性分でもない。たとえ、周囲には愚直、不器用と映っても、今井は消化し切れないほどの情報や、時代の潮流に流されることなく、真っ正面から「力勝負」に挑む腹をくくった。
元来、すべてが順調に進むとは思っていなかった。移籍決定前には、ドジャースなど人気球団を「倒したい」と発言。「サバイバル感を味わいたい」と、日本人選手が所属していない球団を希望する旨のコメントを残した。そんな反骨心は、米国球界の「野党」に属するファンの間では好意的に受け止められた。
その一方で、開幕後は異国文化の現実も味わった。4月10日の敵地マリナーズ戦では、1回を持たずに降板。試合後は、経験したことのないような寒さ、硬いマウンドへの戸惑いを口にした。その後、首脳陣に右腕の違和感を伝えたところ、検査が必要と判断され、翌日、チームを離れ、本拠地へと向かった。検査の結果、「右腕の疲労」と診断され、負傷者リスト(IL)入り。約1週間のノースローとなり、状態を上げていくはずの調整プランは、振り出しに戻った。
実際は、「故障」とは程遠い状況だった。首脳陣とのやりとりの詳細は分からない。ただ、今井にすれば、登板間隔に余裕を持たせたとしても、少なくとも1カ月を要するほどの異変ではなかった。まさに、「1年目あるある」だった。
今回の今井に限ったことではない。特に投手の場合、体の感覚を正確に伝えることは、たとえ日本語でも簡単ではない。日常的に使う「いい感じの肩の張り」、「心地良い疲れ」など、本来、ネガティブではないニュアンスを、英語で伝えることは至難の業。おそらく、米国人がそんな感覚を口にすることは少ない。ましてや主力投手の1年目でもあり、少しの「異常」で球団側が過剰反応してしまうのも無理はなかった。過去にも、大型契約を結んだ投手が、肩ひじの「張り」を巡って、球団側とギクシャクした例は少なくない。「1年目あるある、なんですか。少し安心しました」。想定外の「サバイバル」にも、今井はうつむくことなく、向き合っていた。
開幕以来、自らもつまずき、強豪ア軍も故障者が続出し、本調子には程遠い。だが、先を見据える今井にネガティブな思考はない。
「すべてが初めての経験。もちろん自分が思っていたよりも苦労していますし、いろんな壁にぶち当たっているというのは、自分が一番分かっています。そこで腐らず、というか。一日も早く突き詰めて、同じミスをしないというのが一番大事。しっかりこっちにアジャストできるように、自分の技術不足にならないように、まだまだ練習していかなくちゃいけないと思っています」。
事前の想像以上だったとしても、目の前の壁から目を背けるつもりはない。小手先でごまかすこともしたくない。とりあえず、ぶつかっていくしかない。少し不器用に映っても、昔気質の気骨、男臭さを漂わせる今井の生き様は、実に味わい深い。【四竈衛】
◆アストロズ今井の球種 スタッドキャストによると、アストロズ今井が今季投じた285球のうち93%に及ぶ265球を速球とスライダーが占める。内訳はフォーシームが98球、ツーシームが50球。スライダーが117球。意図的に投げたのか、シュート成分が多くなってしまったのかは不明だが、復帰登板となった12日のマリナーズ戦では速球がすべてツーシーム(シンカー)と判定された。それ以外の球種ではチェンジアップを7球、スプリットを7球、カーブを6球投げているが、試合を追うに従って球種は絞られている。
○…速球とスライダーにこだわる今井のスタイルについて、エスパダ監督は尊重する姿勢を示した。状況によっては、チェンジアップやスプリットが有効であることを認めたうえで、今井の意思を優先。「もちろん、(他の2球種を)使う場面はあっただろう。ただ、我々は彼が制球できる2球種をストライクゾーンに投げ込んでほしいと思っている」。今後、修正の余地があるとしても、当面は「今井流」の成果を見守る方針を明かした。



