最先端のイベントに巨人軍が参画する-。2月下旬、デジタル業界でこんな話題が駆け回った。ITを活用し、野球とファンを新たにつなぐソフト開発のコンペが行われている。日刊スポーツは無謀? にも参加を決意。長期連載「野球の国から 2016」シリーズ16は「野球とITの融合~ジャイアンツハッカソン」と題し、コンペの挑戦をルポします。第1回は「ハッカソンって何?」。(敬称略)

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 2月22日、日本IBMからリリースが流れた。

 「日本IBM、サムライインキュベートは、『ITを通じて野球の楽しさを、もっと多くの人に伝えたい!』という思いから、読売新聞社、読売ジャイアンツ、データスタジアムの協力を得て、『ジャイアンツハッカソン』を開催いたします…」

 ITの老舗と、起業支援の企業がタッグを組み、イベントを催すらしい。そこにプロ野球とデータの雄が加わる? 読み進めた。「読売ジャイアンツに関連するビッグデータを活用して、ファンが試合観戦やスタジアムの外で楽しめるアプリを開発し、競い合います。(中略)新たな価値をもたらすアプリの創出を期待しています」。最後に注釈があった。

 ※「ハッカソン」…「Hack(ハック)」と「Marathon(マラソン)」をあわせた造語で、短期、集中的に共同作業でソフトウエアを開発する技術とアイデアを競い合うイベントです。

 確かに、日程表を見れば2日間で開発、プレゼンまで終了してしまう。仮眠室とシャワーはないが徹夜も可と、意味深長な一文が添えてあった。

 今イベントの窓口となったのは、巨人軍統括部である。既成の枠組みを取り払って、新たな価値を創造する、他とは一線を画する部署。貴重なデータ提供を快諾した。所属の上野裕平(37)に聞いた。

 上野は2000年ドラフト2位で入団した本格派投手。故障に泣き選手として短命だったが、スコアラーとしてデータ分析に能力を発揮した。球団広報も長く務めるなどキャリアを積み、少数精鋭の部署に抜てきされた。「巨人にとってもありがたい申し出。私自身、勉強させてもらうつもり。参加は歓迎ですよ。書類選考がありますが」と言われた。

 興味を持った。時代の先端に触れたい。何より「ハッカソン」って言葉、響きがいい。ネックは開発力。株式会社アプリコットに協力を仰いだ。野球部からは記録記者の斎藤と私。アプリコットの社長、塩月研策(41)には「楽しみましょう」と賛同を得た。塩月が信頼を置く2人の技術者を加え、総勢5人の「日刊&アプリコット」を結成。書類選考をクリアした。

 ハッカソンについて塩月に聞いた。

 「ITの世界では、珍しい言葉ではないです。日本で『ハック』と聞けば、不正に侵入するハッキングとか、悪いイメージが先にくる。アメリカでは、そんな意味合いはない。純粋な『開発』の意味で使う。最初は2000年前後。サーバーの暗号を読み解いて、中のデータを取り出す速さでプログラム力を競うイベントが発祥だと思います」

 超短期の中で競えば純粋な力が分かる。極限状態でアドレナリンが分泌、「火事場のばか力」が発揮され、とてつもないアイデアが生まれることもある。アイデアを競う「アイデアソン」も近年、盛んだという。

 ハッカソンは、あらゆるビジネスシーンで活用されている。フェイスブックの「いいね!」はハッカソン発。NHK、TBSなどのテレビ局、トヨタ自動車、パナソニックなどの企業。行政サービスを開発するハッカソンまである。新しいモノを生み出すために、「他力を借りるなんて」という内輪的発想は古い。

 情報を発信する新聞社にいながら、思考が凝り固まっている。“井の中の蛙(かわず)”を一切捨てる。楽しむ。新たな価値観を得る。挑戦だ。(つづく)【宮下敬至】