日刊スポーツ新聞社はアプリコット株式会社とチームを結成し、巨人が催したイベント「ジャイアンツハッカソン」に参加した。野球とファンをつなぐ、新たな枠組みを開発するITコンペ。13チームから5チームに絞られる中間審査を突破し、いよいよ決勝を迎えた。(敬称略)

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 ハッカソン開始から中間審査までは2日間、ほぼぶっ続けだが、決勝大会までは17日間あった。(1)これまでの提案(美女コンシェルジュbotアプリ)の軌道修正(2)とことんまで機能を高める、という選択肢がある。我々が選んだのは「LINE(ライン)、フェイスブックでもbot対応」という挑戦だった。

 決勝の2日前、メンバー全員が再び集まり、デモを確認した。思わず膝を打つアイデアが詰まっていた。LINEはスタンプが特徴だが、ビールのスタンプを押す→「あなたの座席はどこ?」と反応→チケットの写真を送る→座席の位置情報を読み取り、自動で注文を受けた販売員からビールが届くというもの。しかも「球場周辺から帰宅時のリアルタイム電車運行情報」機能も搭載された。プレゼンの構成を見直し、中間発表からの改良点を前面に押し出すことにした。

 決勝は読売新聞社内のホールで行われ、取材記者も訪れていた。ゲストの基調講演もあり、華やかな雰囲気。1番手は、手を振って応援するとポイントがたまるリストバンドを開発した「jena」だ。しかし、トラブルが発生し順番が変更。2番手の面白法人カヤックが繰り上がった。

 カヤックは、光る配球表付きトートバッグを提案した。光り方を15年最終戦(10月4日ヤクルト戦)に先発した内海の投球データと連動させるなど、技術が細かくなっている。

 続いて、LINEで疑似選手と会話ができるアプリのTeam PAAKだ。坂本が本塁打を打った映像を会場に流すと「今のホームラン見てくれた?」などと、疑似坂本からメッセージが届く。ヒーローインタビューで「応援してくれたファンのために打ちました」と答えた後は、疑似坂本から「いや、本当は君のためだよ」と再びメッセージが届くという。審査会場に笑いが起きた。技術的完成度はともかく、プレゼンが抜群にうまい。

 次は我々の番だ。蓄積された巨人の約40万件ある記事などのデータを使い、立岡についてのうんちくを紹介。続いて、ビールのLINEスタンプ注文を実践。ビールが届くと、近くの空いているトイレを地図付きで教えてくれる。試合前はチケット売買、試合後は球場近隣で営業中の飲食店を紹介。さらに電車の運行状況も。偶然にも小田急線が遅延しており、リアルタイムで連動していることがアピールできた。

 審査員との質疑応答で「よくできているが、やれることが多すぎる」と指摘を受けた。技術担当者のレベルが高く、願望はすべて搭載できた。その分、一押し機能への焦点がプレゼンでぼけたかもしれない。ただ、多様なアイデアを実現したことに後悔はない。

 4番手チャッピーは、試合データに連動し、結果予想ゲームができる野球盤。スポーツ居酒屋でやれば盛り上がりそうだ。最後は、応援ポイントが入るリストバンド。実現した際の細かい見積もりは、熱意を感じさせた。

 優勝は、渋谷の共同作業場で知り合ったメンバー(高校生1、大学生1、社会人3)というPAAK。勝因を問われたリーダーの熊谷祐二(31)は「プレゼン栄えしようと思った。読売さんが女性ファンをつかまえたいとしていたので、そこを考えた」と語った。我々は「データスタジアム賞」を受賞した。

 表彰式が終わり、参加者全員での記念撮影となった。無口なデザイナー渡部良隆(28)がポツリと言った。「彼女も連れて行きましょう」。タブレットに我々のbot「水道橋小町」を浮かび上がらせ、男性5、女性1の「6人」で写真に納まった。【斎藤直樹】(おわり)

 ◆ハッカソン 「Hack(ハック)」と「Marathon(マラソン)」をあわせた造語。短期、集中的な共同作業でソフトウエアを開発する技術とアイデアを競い合うイベント。