プレーバック日刊スポーツ! 過去の12月10日付紙面を振り返ります。1998年の1面(東京版)は松坂大輔の西武入団表明でした。

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 西武からドラフト1位指名された松坂大輔投手(18=横浜)が9日、入団を決意した。東京都内のホテルで食事をしながら行った東尾修監督(48)らとの交渉後「前向きに考えたい」と初めて入団の意思を表明した。次回交渉で入団が正式決定する。松坂のプロ入りは観客動員減、オリックス三輪田スカウトの自殺、ダイエーのスパイ疑惑問題など暗い話題ばかりのパ・リーグにとって唯一の明るいニュース。スーパースター松坂がパ・リーグを救う。

 松坂がついに西武入団の意思を固めた。約1時間30分の交渉後に行われた東尾監督と松坂のツーショット会見は、事実上の入団発表と思えるほどだった。「たくさんいい話を(東尾)監督さんから聞かせてもらったので、西武入りの方向へ前向きに考えたいと思います。オリンピックよりプロでやりたい」。松坂が陥落した瞬間だった。

 松坂に西武入団を決意させたのは東尾監督の宝物だった。「自分が200勝した時(84年9月15日の南海戦で達成)のボールを受け取ってくれ」。投手だからこそ分かる記念球の重み。「オレにとって大切なボール。丈夫で長持ちして200勝してほしい」。記録にこだわる松坂は「大切なボールをもらっていいのかなと思った。家宝にします」と大事そうに学生服のポケットにしまい込んだ。

 西武にとって、もともと松坂とりは堤オーナーの意向だった。来年3月に完成する西武ドームの目玉にと考えていた。この日、来季の日程が発表されたが、西武の主催試合は全部で68試合。西武ドームでは66試合が行われる。地方での試合はパでは最少の2試合(札幌)しかない。西武ドームを満員にする。そのためには松坂が何としても必要だった。

 さらにはパ・リーグ、プロ野球界にとってもうれしい決断となった。パ・リーグはこのところオリックス三輪田編成部長の自殺にまで発展した新垣問題や、ダイエーのスパイ疑惑と暗い話題ばかり。これを救えるのは松坂しかいない。オリックス・イチロー効果も頭打ちで観客動員は昨季から約150万人も落ち込んでいる。西武だけでなく、他球団にも「松坂効果」が表れるのは確実だ。小野球団社長は「心からうれしい。もっとうれしいのは(プロ野球の組織にいる人間として)プロの道を選んでくれたこと」と感激した。

 次回の交渉では、契約金1億5000万円(出来高払い5000万円を含む)、年俸1300万円の最高条件を提示する。背番号も松坂の希望する「18」を予定している。この日の食事会の席で、東尾監督は決しておいしい話をしなかった。開幕一軍も五輪出場も何も約束しなかった。しかし、これが松坂のプライドをくすぐった。特別待遇をしないでも「おまえなら一軍でバリバリやれる」という無言のメッセージを松坂はしっかり受け止めた。社会人入りして3年後にあこがれの巨人を逆指名する考えもあった。が、夢よりも一日も早くプロで自分の力を試したい、という気持ちが勝った。最速151キロのストレートで西武ドームを、そしてすべての球場を満員にしてみせる。

 ◆中華フルコース  西武はVIP待遇で、松坂のハートを射止めた。この日、東京プリンスホテルの中華レストランでの食事会では、東尾監督が自らメニューを選んでフカヒレの姿煮や北京ダッグなど、中華料理12品を並べた。フルコースに加え、大好物のトリの空揚げもテーブルに並び、松坂も「今日の中華は格が違いましたね」。また、両親と飲むために今年のボジョレ・ヌーボーワインの赤、白ボトルを用意。「1998年が記念の年になるように」との願いを込めた。

<松坂大輔交渉経過>

◆11月19日

ドラフト前日。「(横浜一本という)気持ちは、変わってません」。

◆同20日

ドラフト会議。横浜、西武、日本ハムが1位指名し西武が交渉権を獲得。「(クジが)外れたなという感じ。甘くはなかったですね。気持ちが揺らぐことはない」。

◆同21日

ドラフトから一夜明け、「(西武拒否の)気持ちは変わってません」と鉄の意志。

◆同22日

巨人清原から西武入りを勧められて、「プロの先輩としてそう言ってもらうのはありがたいですけど」と受け流した。

◆同23日

西武の指名あいさつを翌日に控え、「淡々としてます」。

◆同24日

指名あいさつを受け、「誠意みたいなものを感じました。どちらかといえば西武は好きな球団」と軟化。

◆同27日

ドラフトから1週間。「選手の育成法とか、練習法を聞いてみたい」と積極発言。

◆12月1日

定例の記者会見。「(東尾監督に)プロに入ったらどうやったら勝てるのか聞いてみたい。西武に誠意、熱意を感じる」とさらに前向きな発言。

◆同3日

初交渉。「東尾監督の話を聞いて、とてもいい印象を受けました。(社会人入りを)白紙に戻してゆっくり考えたい」と西武入りに大きく傾く。

※記録や表記は当時のもの