ベテラン捕手の助言で、将来のエース候補が復調のきっかけをつかんだ。西武高橋光成投手(20)は試合後、辻監督から「今日は自己評価、何点だ?」と聞かれ「75点です」と即答した。「今日はだいぶ点数を上げました。キャンプから毎回聞かれていて、30点とか40点とかと答えていたので」。指揮官も「そうか、いいぞいいぞ」と笑顔で応じた。

 2番手として5回から4イニングを投げ被安打3、1失点、4奪三振。直球の球威が増した分、フォークでも空振りが取れる相乗効果で、特に2イニング目以降は危なげない投球をみせた。調子があがらず、十亀、ガルセスとの先発5番手争いに苦戦していたが、一気に巻き返した形になった。

 辻監督はそんなピッチングを受け、監督室へ引き揚げる道すがら「今日のMVPは上本だな」とつぶやいた。この日は控えだった上本だが、事前にブルペンで投球練習を受けた際の印象を踏まえて、高橋光に的確なアドバイスを送っていたのだという。

 上本に確認すると「こないだ1人になった時に、光成のことでふと思いつくことがあったんです」と明かした。ブルペンで球を受けた時に、ストレートの球威が本調子とは程遠いと感じた。その日の夜、眠りにつく直前にふと「なんでやろ、あんなにフォークのキレはええのにな」と考えた。

 フォークの腕の振りはいい。なぜか。「狙ってないからちゃうかなと。フォークは高めにさえ浮かなければ、細かいコントロールはなくても空振りを取れる。だから思い切って腕が振れるんかなと」。ならば、同じように細かい制球を気にしなければ、ストレートも腕を振って投げられるはず。そういう仮説を立てた。

 翌日。球場の浴場で高橋光を見かけた。いつも一緒になるわけではない。上本は声をかけた。「なあコウナ。オレ思うんやけど」。フォークと同じように、ホームプレート上ならどこでもいいという気持ちで、思い切って腕を振ってみてはどうか。それが言うほど簡単じゃないと承知しながらも、思うところを伝えた。

 親身なアドバイスに、高橋光は素直に耳を傾けた。ソフトバンク戦。1イニング目の5回裏2死三塁の場面で、初球ストレートがやや甘く入り、中村晃に左前適時打を許した。普段なら「もっと制球を」と考えるところ。しかしこの日は違った。「もっと腕を振れば、球威で押し込んでファウルにして、カウントを稼げる」。失点でかえってフォームの躍動感が増した。

 ぐいぐいと直球で押し込み、フォークで仕留める。あるいは、ストレートが逆球になっても勢いで勝り、空振り三振をとる。4回1失点、被安打3、奪三振5という結果以上に、強い手応えを得た。

 辻監督もたたえた助言の主、上本だが「誰に対してもイメージが湧くわけちゃいますよ」と言う。素質は誰もが認めるところ。ベテランの貴重な助言をきっかけに、高橋光が潜在能力を一気に開花させる。