邪念を捨てて、振り切った。阪神中谷将大外野手(25)が決勝打を放った。

 「チャンスで回ってきたら打ってやろうという気持ちが強かったですし、シンプルに打席の中で相手のピッチャーと勝負できた」

 同点の8回1死二塁。ヤクルト風張が投じた内角142キロ直球をつかまえた。やや詰まり気味だったが、振り抜いた打球は左翼線に落ちた。「チャンスも少ないですし、打席も多くない。なんとか結果を出せるようにと思って」。一振りに執念がにじみ出た。

 今季で8年目。中核を担うべき世代に入ってきた中谷が“先輩”を感じた瞬間があった。昨季、新人だった大山がバットのモデルを尋ねてきた。「後輩に聞かれて。それは、すごいうれしかったです」。喜んでバットを渡した。そして、大山は“中谷モデル”のバットでプロ初本塁打を放った。記念に保管していると聞き「どっちかというと、自分は結構(先輩に)ついていくタイプなので、本当にうれしい」と喜んだ。

 今季から選手会副会長にも就任。遠征先の食事会などで、後輩の面倒を見る立場にもなった。それでもグラウンドでは「どの立場でも必死にやっていくだけ。まずは自分のこと」と、1軍生き残りに懸命だ。「必死なんで。後輩とか、正直かまってられないぐらい…」。昨季20発を放ったが、今季は2軍スタート。昇格後もベンチを温めることが多い。悔しさを味わいながら、目前の1球に食らいつく。

 金本監督は「見え見えでインサイドを投げられて、それを打てない状態が続いていた。(内角球を)狙っていけば向こうも変化球を投げてくる。中谷が一番得意な抜け球、半速球なんだから」とうなずいた。

 中谷はお立ち台で誓った。「自分が打てなかったつけが今、回ってきている。そのつけを取り返せるように、必死でアピールしていきたい」。その覚悟が、背中からにじみ出た。【真柴健】

 ▼今季の中谷は得点圏で打率3割6分1厘(36打数13安打)の好相性。得点圏で40打席以上の阪神打者では、陽川4割(35打数14安打)に次ぎ2位。満塁では3打数3安打、1犠飛で6打点とチャンスに無類の強さを誇る。20本塁打とブレークした昨季だったが、得点圏では打率2割3分8厘(101打数24安打)、満塁では9分1厘(11打数1安打)と苦しんだ。勝負強さを増した打撃が今季の持ち味だ。