打撃職人の一振りだ。ソフトバンク長谷川勇は、打球の着弾を見届けるよりも先に小さくガッツポーズし、ゆっくり走り始めた。1点を追う2回無死一塁、右翼席中段へ逆転3号2ラン。「久々のスタメンで緊張しましたが、なんとか集中することができた」と控えめに笑った。6回にも右翼テラス席へ4号2ランを放ち、2日西武戦以来の先発で2発4打点。チームを6月24日以来、約2カ月ぶりの3連勝に導いた。

 「1打席にかける思い」の強さが長谷川勇を進化させる。前半戦最後の7月10日日本ハム戦、好機の代打で追い込まれ、タイムをかけようとしたが認められずに見逃し三振となった。「あれから何日かはピッチャーがセットしている姿が目に焼き付いていた。すごく集中していたところに、思っていない軌道の球が来るイメージが浮かんでしまった」。それからだ。あえて悪球を投げてもらうティー打撃を取り入れ「思っていない球にも対応できるよう」準備した。「1打数1安打というのは究極なんですよね。だからこそ、打撃の質を高めている。打てなかったら崖から落ちるくらいの状況。研ぎ澄まされている部分はある」。8月は6割1分5厘で4本塁打。首位打者と最多安打を取った13年を上回る感覚を手にしつつある。

 3連勝で貯金2となり、工藤監督も「今日は本当に長谷川くんデーになった。みんなが特長を出して、いい形で勝てている」。西武とのゲーム差は1ケタ9・5に縮まった。まだ逆転への火は消えていない。【山本大地】