多くの企業同様、阪神球団でも7日に年賀式が行われました。1年の始まりに健闘を誓うこの場。そこでもっとも目立ったのは新しく指揮を執る矢野燿大ではなく、昨季限りで現役引退した今成亮太でした。今月1日付で球団職員となった今成は新任のあいさつを求められると突然「引退会見」を始めました。

甲子園球場に隣接する球団施設での年賀式には報道陣も出席します。それを十分、意識した上で「僕の引退会見にお集まりくださり、ありがとうございます」とぶちかましたのです。

今成といえば、しぶとい打撃技術もそうですが何より有名なのはものまねを始めとするパフォーマンス。秋に行われるファン感謝デーでチームメートをまねする姿は本当に面白かった。昨秋の同イベントではそれもなく、寂しい思いをしたものです。

以前から感じているのですが、阪神にいまひとつ欠けているのは今成のようなサービス精神ではないでしょうか。他球団のファンは、阪神といえばかつての豪放磊落(らいらく)なイメージを持っているかもしれませんが、現状は少し違います。

12球団でもメディアの目にさらされる面では1、2位を争う現実を受け、選手たちはいわゆる「悪目立ち」を避け、おとなしくしがち。ヒーローインタビューでも特別なことを言ったり、笑いを誘ったり、という様子はほとんど見られません。

新監督・矢野はそういう部分を指摘。「コメントでもファンを喜ばせよう」と口にしています。悪ふざけは見苦しいものですが、ファンに見られているということを意識しての言動は、やはり、プロとして重要だと思うのです。

今成は事業本部振興部に所属し、アカデミー担当専属コーチを務めます。簡単に言えば子どもたちに野球を教える立場になるそう。

「自分自身も勉強です。子どもたちには最終的に阪神に入ってもらって、ファン感謝デーでMVPを取ってもらいたい」。抱負も自身の過去を意識してのものでした。さらに「僕自身もまだ(現役の)チャンスがあるんじゃないかと思っている。ここで矢野監督にアピールしたい」とおまけも。もちろん冗談なのですが、こういうことをサラリと言うのが、今成なのです。

プレーで魅了し、コメントで笑わせ、ファンをとりこにする。広島にしろ、西武にしろ、強いチームにはそんなムードが生まれています。どちらが先なのかは分かりませんが、阪神にもそんな状況ができれば浮上も夢ではないと思うのです。(敬称略)【編集委員・高原寿夫】