先行きが不透明だからこそ、日々をしっかり生きる。東京6大学野球の東大は9日、予定されていた新年最初の全体練習を行えなかった。

首都圏に出された緊急事態宣言を受け、大学が方針を決定。11日から2月7日までは課外活動が原則禁止となるため、野球部としての活動も停止される。本来なら、この日に始動するはずだったが、11日からは施設も利用できなくなる。東大球場に置いてある用具の搬出などに追われた。

あわただしい年明けとなったが、集まった部員たちに井手峻監督(76)は語り掛けた。

「七十何年間、生きてきたけど、毎日同じということはなく、新しいことが起きる。それに対応して、1日1日を全うして生きていこう」

意図を補足した。「特に最近、そう思いますね。1日1日を大事にしたい、と。何日か後のことが気になるものだけど、今日1日を大事にしようと。最近は、そういう思いが強くなりました」。プロ野球を含む76年の経験が、日々の大切さに目を向けさせる。コロナ禍の今だからこそ、より重く伝わる言葉だった。

今春開幕へ向け、本当なら意気込んでいきたいところ。少なくとも1カ月は、個々の鍛錬に任せるしかない。出ばなをくじかれた格好だが、大音周平主将(3年=湘南)は「うちの大学は一番都心にあるし、こういう対応で正しいのかな、と思います」と、全体練習を続ける他大学をうらやむことはせず、冷静だった。「体力づくりの1カ月と考えていたので、個々で足りないところをやっていきたい」。

構内にある一般向けのジムを使用できないか、大学側と交渉中。使用可能となれば、少人数に分かれてトレーニングを継続できる。「ボールを触りたい気持ちもありますが、今は我慢かな」。個別に打撃練習ができる学外の施設なども探しているという。

恒例の根津神社参拝は、監督、主将、主務の3人のみ、認められた。「無事に1年、過ごせるように」と井手監督。17年秋から続く56連敗のストップにも注目が集まるが、「それに関係なく、勝ちを目指します」。逆風だからこそ、日々を大切に-。東大の21年が幕を開けた。【古川真弥】