一瞬の出来事だった。0-0の9回表2死満塁。大正大はピンチを迎えていた。だが、斎藤康徳投手(4年=霞ケ浦)は落ち着いていた。川上智に2球を投げ、カウント1-1。3球目のセットに入る前だった。左腕を素早く振り、三塁へけん制した。走者・杉山は戻りきれず、タッチアウトに仕留めた。6安打無失点も援護なく、完封勝利はならなかったが、チームは今季7試合目で初めて負けなかった。

「狙ってました」。試合後、斎藤は淡々と明かした。「1-1でカウントに余裕があったので、周りに声をかけました。その時、三塁手の森と目があって、アイコンタクトで『行けるぞ』と。その後、ロジンを触ったときに、視界に走者が見えて、そっぽを向いていたので」。

けん制は得意としている。練習試合では1試合に4度、けん制で走者を刺したことが3、4回もあるほど。小学4年から本格的に投手を始めたが、その頃から「ずるがしこく」やることを考えていた。さらに「僕は身長(163センチ)がない分、テンポ、緩急、高低、コースの4つで勝負しないといけない。高校での教えです」と持てる力をフルに生かすのがポリシーだ。

高3の夏、茨城大会決勝で土浦日大に延長15回の末に敗れ、甲子園を逃した。遠藤(現広島)と2人で投げ続けたが、目指した舞台は遠かった。「勝てると思いました。でも、勝てなかった」と勝負の厳しさを知った。だからこそ、けん制も含めた総合力で勝負する。

実は、他リーグなどの1部校からも声がかかったが「強い相手を倒し、大正大を2部に上げたい。そっちのスタイルの方がいい」と、当時3部だった大正大への進学を選んだ。他の2部校と比べても、グラウンド状態など環境は決して恵まれていないが、初志貫徹で努力を続ける。2年秋に3部優勝、東農大との入れ替え戦を制し、2部昇格を果たした。昨春のリーグ戦中止を経て、昨秋は5位と最下位を免れた。今季は苦しい戦いが続くが「入れ替え戦も頭に入れないといけませんが、秋も2部で投げられるようにしたい」とベストを尽くす。【古川真弥】