その数秒間だけは敵も味方も関係ない。観客の誰もが大飛球の着弾点に目を凝らした。阪神大山悠輔内野手(26)が寸分狂わぬタイミングでフルスイングを決める。左翼席後方上部にあるキリンビール「一番搾り」の看板に白球が跳ねると、東京ドーム全体にどよめきと拍手が入り乱れた。

「当たり的には本当に完璧でした」

本人の言葉通り、打球速度、角度ともに、文句のつけようがなかった。0-0の3回2死。山口の初球、真ん中に入った141キロ直球を見逃さなかった。飛距離は143メートル。目で打球を追うことも、1歩目を踏み出すことも、左翼手の亀井に許さない。18日ぶりの1発となる17号ソロは先制弾、そして決勝弾。4番復帰後3試合目で初アーチ。宿敵巨人を相手に、重みのある1発となった。

主将に就任して1年目。年下の選手と会話する機会を増やしている。背中の張りのリハビリを続けた5月には、10代の若虎にも積極的に声をかける姿があった。「すれ違ったタイミングで声をかけてみたり。何げなく会話をするのも、すごく大事だなと感じました」。チームの一体感に尽力する毎日。激しい首位争いが続く秋、特大弾のゲーム後にも主将の立場が先に来る。

「ガンケルもそうですけど、チームにとっても先制点が欲しかったので、そこの点数が取れたのは良かった。その後に糸井さんがタイムリーを打ってくれて、チーム全員で戦えた1試合になったと思います」

巨人との敵地3連戦を2勝1分けで乗り切り、いよいよラストスパートに入る。16年ぶりのV奪回へ、主将の底力は欠かせない。矢野監督は「残りの試合でも悠輔の打点、ホームランというのは必要。いいきっかけにしてもらいたい」と期待。勝負の季節、力の限り突っ走る。【佐井陽介】

〇…大山は賞金とビールについて有意義な活用法を模索する。東京ドームの左翼席後方上部にあるキリンビール「一番搾り」の看板に大飛球を届かせ、賞金100万円と「一番搾り」1年分をゲット。使い道を問われると「まだ決めていないですけど、プラスに使えればいいと思う。なかなかもらえるものではないと思うので、いいことに使いたい」と見通した。