拓大が19年秋以来2年ぶり、5度目の2部優勝を果たした。20年春から指揮をとる馬淵烈監督(32)にとっては初優勝となった。

9回裏2死一塁。最後の打者を3番手・八幡拓希投手(4年=拓大紅陵)が三振に仕留めると、歓喜に沸く選手たちの後ろで、馬淵監督は静かにタオルを取り出し涙を拭った。「本当に、涙が出るほどうれしいですね」。喜びをかみしめた。

6回1死から田村大哉内野手(1年=花咲徳栄)のソロ本塁打で先制。その後も2四球2安打でこの回3点を挙げた。後半勝負で優位に立つと、7回に2点、9回には根本皓通内野手(4年=常総学院)の右越えソロも飛び出しリードを広げた。

投げては先発の最速150キロ右腕、川船龍星投手(4年=松本第一)が、6回2/3を投げ3安打無失点に抑える好投。その後2点を失ったが、継投で逃げ切った。

何のために戦うのかー。馬淵監督は優勝の要因を「4年生が変わってくれたこと」と言った。8月下旬に今秋リーグ戦は新型コロナウイルスの影響で入れ替え戦を行わないことが発表された。「戦国東都」と呼ばれる東都大学野球。1部昇格を目指し、4年生は日々練習を積んできた。目標を失い、ノックにも選手の覇気を感じなくなった。「4年生に引退させてあげるのも、ひとつだろうか」。監督として、悩む日々が続いた。

そんな時、野球部OBの言葉が胸に響いた。「戦いをあきらめたらダメだ。絶対に後悔する」。入れ替え戦はなくとも、完全燃焼。やり切って卒業させたい。心が決まった。

9月上旬、田崎誠也主将(4年=常磐大)にげきを飛ばした。「4年生がこんな体たらくだったらダメだ。ユニホームを脱げ」。この言葉で4年生のスイッチが入った。ミーティングを行って徹底的に話し合い「最後までみんなで野球をやりたい」と気持ちをひとつにした。選手たちは、大学でプレーできる喜びをかみしめながら、優勝よりも1戦1戦大事に戦い、ここまで8勝1分け。1試合を残し、黒星なしで優勝を決めた。

4年生は誰1人として辞めず、そして最後まであきらめずに戦った。馬淵監督は「優勝よりも、大事なものが分かった。そんなリーグ戦でした」。受け入れて、人は変わる。指揮官は、歓喜に沸く4年生を温かく見つめた。【保坂淑子】