<日本ハム3-3ヤクルト>◇23日◇札幌ドーム

 日本ハムの二刀流ルーキー大谷翔平投手(18)が、真っ向勝負で投手としての第1歩を刻んだ。23日のヤクルト2回戦(札幌ドーム)で1軍初マウンドに上った。初回の10球すべてに直球を投げ込むなど、86球のうち65球を直球という力の投球を見せた。最速157キロは、札幌ドームではダルビッシュがマークした156キロを上回る球団最速。5回2失点で降板も、中田の1発で黒星もつかなかった。将来の可能性が大きく膨らむ投手デビュー戦だった。

 大谷は、ありったけの力で腕を振った。全86球のうち、最大の武器である真っすぐが65球を占めた。地響きのような歓声を「緊張して覚えていない」と振り返ったが、その緊張感さえ力に変えていた。

 大谷

 気がついたら真っすぐしか投げていなかった。押せていけたので、そこはよかったと思います。

 3回、バレンティンへの5球目は157キロをマークした。札幌ドームでの球団史上最速は、ダルビッシュが11年3月のオープン戦で出した156キロだったが、それを上回った。打率3割8厘とバットで奮闘中の新人が、投手としても無限の可能性を示した。

 5回6安打2失点で降板した。この時点では敗戦投手になる可能性があったが、8回に中田の2ランで同点に追い付いた。この時ベンチで跳び上がって喜んだ大谷だが、引き分けに終わると悔しさが残った。「(中田は)期待されたときに結果を出すのがすごい。でも(1点に)抑えていれば、逆転本塁打になったかも」。決して満足だけの初登板ではなかった。

 2回の失点は2死無走者から。安打と四球で一、二塁とされ、中村にはシュート回転して真ん中に入った152キロ直球を左中間へ運ばれた。毎回走者を許し「セットやクイックで課題が見つかった。攻撃にいい流れを持っていけなかった」と反省も忘れなかった。

 二刀流には批判の声もある。身体的には、当然負担はかかる。だが大谷自身は重荷に感じたことはない。左打ちのため、打撃練習でつくられる手のマメは、投球で使う右手にできる。それを心配して声をかけたスタッフに、手のひらを広げて「僕ここ(投球に支障のある指先など)にはマメができないんです。二刀流向きの手なんです」と涼しい顔で答えた。また、野手での1軍出場と投手での2軍調整で移動も含めてハードになっても、疲れた顔は一切見せなかった。

 その姿があるから、二刀流という特別な立場でも、チーム内で“浮く”ことはない。球場への往復を共にしていた同期の鍵谷が登録抹消されていなくなると、すぐに5年目の中島から「オレの車に乗っていくか?」と声を掛けられた。「ありがとうございます」。この日も中島の車に同乗させてもらった。先発投手はゆっくりでいいのに、早出の中島に付き合って午前11時半には球場入りした。「今日は遅くていいのに…」。中島は苦笑いを浮かべるが、大一番でも一緒に行動する大谷がかわいかった。いつしか関係者内に浸透したあだ名は、親しみが込められた「ボクちゃん」。“浮く”どころか、皆から愛されている。

 当面は再び野手となり、あさって26日には甲子園で阪神藤浪との対戦も待っている。「打席は打席で切り替えていきたい」。打者でも投手でも、あらためて未来が楽しみになった。大谷の剛球デビューは、球界に、明るい光を照らした。【本間翼】