つかみはばっちりだったのではないか。新日本プロレスの新社長に就任したハロルド・メイ氏だ。

 6月9日の大阪城ホール、第1試合前に流された3分超の“大作”あおりVTR。作り込まれたそれは、メイ社長自らが出演し、シャワーシーンのサービスショット? まで盛り込まれた、紹介映像だった。外資系企業で数々の実績を重ねた「プロ経営者」が、なぜ新日本プロレスを新天地に選んだのか。

 東京の木谷オーナーから携帯電話に連絡が入り、それをニューヨークで受ける設定。木谷オーナーは打診の理由を述べる。

 「新日本プロレスはこれから何が大事かというと、もっと世間に対してメジャーにする、いわゆるマーケティングやブランディングの強化。そんな時に誰が適任なのかと思ったら、もうこの人しかいないんじゃないかなと。すごい経営者だと思いますよ」。

 その言葉を背景に、映像では飛行機が日本に降り立ち、サングラス姿の名社長が来日した姿が描かれる。日本に住んでいた8歳の時にテレビでプロレスを見て魅了され、10年前に再び新日本にのめり込んでいったことなどが語られる。英語のせりふとともに、なんとも「出来る男」ぶりが描かれるのだが、ここからの転調に目を見張った。

 大阪城ホールに向かう車内に映像は移るのだが、ここで登場するのは、なんとたこ焼きだ。大阪の名物であるが、なんともコテコテ感が満載。それまでのすご腕のイメージとはギャップが大きいような感覚。箸を使って、舟皿からなんともおいしそうにほお張るが、どこかおかしみがある…。

 その後、なぜ「たこ焼き」だったのかが、少し分かった気がした。メイ社長、実は人一倍サービス精神旺盛で、人を笑わせ、驚かせることが大好き。大阪城ホールから数日後にインタビューした際に、「自分が分類されるならタグチジャパン」と定義していた。タグチジャパンと言えば、田口隆祐が監督を務める、どこか間の抜けたような楽しさを提供するユニット。戦いの中にも笑いを忘れない、そんなメンバーに自身を位置付けていた。確かに前職のタカラトミー社長時代には、率先してハロウィーンの仮装に凝ったり…。

 「お披露目は1回しかないから」と気合が入っていた大阪城ホールでの登場にも、そんな精神に満ちていたのだろう。あえてシャワーシーンで格好良く決めてからの、たこ焼きシーンの落差は確実に「狙い」にきていたと思う。そして、その人柄こそが、このオランダ人新社長の魅力の1つだ。

 6カ国語を操り、流ちょうに日本語を話す姿は、「外資系」というどこか冷たさのある響きとは無縁。インタビュー中も、陽気に明るく、楽しい話を聞かせてもらった。これからどんな「サプライズ」を提供してくれるだろうか。【阿部健吾】